2023.03.24

[連載BLOG3話]自宅を【実験台の家】と称し、外壁の経年変化レポートを開始。

空き家問題を取り入れたキッカケ

春、親戚から「ある家主が家をもらってくれる人を探しておるんやけど、あんたいらんかね?この家を解体すると、300万以上かかるそうや。」そんなお話をいただきました。事業を立ち上げて11年目の時です。

その物件は、物資が乏しい時代に建てられた上、長い間、空き家のまま放置され、かなり傷んでいた民家でした。

小川社は起業後8年目にウッドロングエコを塗布したウッドデッキ用材(木もちeデッキ)10年目に外壁材(木もちe外壁)の販売をはじめていました。といいますのは、ウッドロングエコをご購入いただいたお客様の中には屋外に適した木材を選別しない方がいて、小川社のような塗料販売店が「屋外に木を使うなら適した木材を選別しないと難しいですよ」とお伝えしても聞いてくれる人がいなかったからです。屋外に木材がつかわれなくなり、適材適所の木を選ぶという感覚が薄れているのかもしれません。

また、当時はウッドデッキ=ハードウッドというイメージが非常に強く、中には違法伐採されたウッドデッキ材を知らずに使うという人も多く、危機感がありました。ハードウッドと比較すると日本の針葉樹は腐りやすいというレッテルを張られたのも悔しかったです。

小川耕太郎がウッドロングエコの販売代理店になる!と決断をした理由は、「国産材需要を伸ばしたい」というビジョンがありました。空き家の話が来た時は、小川耕太郎は「これからの小川社の決め手になる!」と思ったそうです。

何が決め手かというと、その空き家を【実験台の家】とすることによって、ウッドロングエコ仕上げのウッドデッキや外壁の経年変化を公開することができ、ウッドロングエコの良さを伝えていくことができるということです。そしてそれがお客様の安心材料にもなります。

「よし、この家を小川社の実験台にしよう」という判断に私も意気投合し、企業して11年目に新しいスタートを切りました。

「空き家」が社会問題となり、リノベやDIYなどが増え始めていた時代でした。

工事現場で大工さんの声を拾い改良につなげる

▲【実験台の家】ビフォー

最初は、外壁は一面のみ「木もちe外壁」を張り経過観察をする予定でしたが、小川耕太郎は、三重県尾鷲市は日本で降水量のトップ争いをする地域だからこそ、この実験は説得力があると考え「東西南北すべて張って実験したれ!」と全ての面に張ることになりました。予想外の出費だったので、私は内心ハラハラでしたが、今思うと、結果的にはお客様からいただく様々なご質問に自身の経験を重ねてお答えできるようになり、売上を伸ばすことにもつながりました。

【実験台の家】の外壁工事にはいると、私は出社前に保育園におくる娘と一緒に工事現場に足を運び、大工さん同士の会話に耳を傾けメモをとるという毎日でした。

あとになってわかったのですが、増築箇所が築60年で、 一番古い箇所は築80年でした。歪みがひどく、大工さん達は、外壁を張る前の歪み調整にかなりの時間を費やしていました。

でも、縦胴縁さえ打てば、外壁材は塗布済みなので張る作業は3日で終わりました。

外壁の張り方で勉強になったのは、多雨地域の尾鷲にて、木の伸縮を考慮した職人さんの施工作業です。屋外につかう無垢材は、雨が降ると、水分を含んで膨張し、晴れが続くと水分を吐き収縮し、板に含まれる水分を調整します。木本来の性質である調湿効果を接着剤や塗料で抑えてしまうと木が割れる可能性があります。

だから、板と板は接着剤で固めずに、角のみ接着剤ではり 固定をする。板と板の間にスペースをいれ、膨張と収縮ができるようにしています。

自然素材を扱うということは、素材の性質を理解し、施工環境の風土を考慮して使うということなのですね。この辺は、マニュアル化できないため、無垢材をはじめ自然素材はめんどうくさい と思われている理由ではないでしょうか。

蜜ロウワックスを販売した経験が、自信につながる。

起業当初に比べると、木の家にあこがれ内装に木を使う人はでてきましたが、無垢の外壁に関してはクレームが多いからと敬遠されていました。

しかし、小川社には蜜ロウワックスを商品化し市場を育てていった経験があります。蜜ロウワックス販売当初も「世の中には手入れをしなくていいウレタン塗料という便利なものがあるのに、こんな不便なワックスは絶対に売れない」と断言されました。

確かに発売当初はクレームが多く、説明書に漫画をいれる、電話での応対を工夫するなど日々の応対をブラシュアップすることで、ようやく自然塗料の性質をご理解いただけるようになりました。時間をかけて商品を育て啓蒙をすれば、売上は伸びるという確信だけはありました。

塗料の販売だけでは、わからなかった現場の問題

小川社がウッドロングエコ仕上げの外壁(木もちe外壁)を扱うことになり、塗料販売だけではみえなかった、工事現場がかかえる様々な問題点がわかってきました。その例として3つほど上げます。

一つ目 庇の問題

防水シートの発達により、最近は庇が短い、または庇の無い家が多くなりました。そのような設計の場合は、湿度によってどうしても外壁板が動きやすいので、反りがでてきます。そのような場合は「角」だけでも出隅材や入隅材で押さえることでかなり安定します。また、動画では、サネに釘を打っていますが、雨が良く当たる場所は外壁板に直接打つと反りが抑えられます。

昔と違い、今は外観の設計が多種多様なため、どのように説明すればよいのか難しい部分がありましたが、庇の無い家ケースの実験をすることにより、お客様のご質問にお答えできるようになりました。

二つ目 雨仕舞の問題

現在の窓はとてもよく設計されており、コーキングだけでも雨仕舞が良いですが 、毎年のように記録的豪雨が観測される時代に入り、コーキングだけでは不安な面もあります。そこで、多雨地域の尾鷲市の事例としてコーキング寿命に頼らない雨仕舞の補強などの体験談もカタログにいれました。

多雨地域の雨仕舞の参考事例を
ウッドロングエコのカタログp24-25にいれる。


三つ目 灰汁汚れの問題

ウッドロングエコは、塗布後3日間しっかり乾燥させれば、雨によって流れることはありませんが、無垢材は雨に打たれることにより水溶性の灰汁が流れ、コンクリートが汚れることがあります。施工事業者様は引渡し前に物件を汚すことに敏感ですので、それらの対処法もお伝えする必要があることがわかりました。


【実験台の家】での経験や、日々のお客様への対応などの経験をカタログやHPに明記しても、施工場所は気候風土が異なります。それらの内容を参考にするかは、事業者様と施主様の判断に委ねられます。しかし、ウッドロングエコの商品情報以外にも、現場での困り事などの情報を発信することで、結果的にウッドロングエコの売上は伸びました。

外壁の経年レポートを定期的に公開をする

2023年でリノベーション後13年が経ちます。ウッドロングエコ仕上げの外壁の経年レポートは定期的に更新しています。それによって「木の外壁はこんな風に色変化をする」ということがご理解いただけるようになってきました。私たちは、「現代」という時代に[無垢材+ウッドロングエコ]という商品を売るのですから、現代の需要にあわせた対応は大切です。

常々思うことは「つくる」という仕事は林業家や製材所、設計士、工務店、大工だけではないということです。私どものような一販売業者も、無垢材市場をつくいると思います。それぞれのポジションでの気づきが、国産材需要と自然由来の木材防護保持剤の需要を伸ばすことに繋がるのではないでしょうか。

社会的課題を事業に組み入れる。

「持続可能」とか「サスティナブル」などという言葉はいい印象を受けますが、覚悟をきめて事業に組み入れなければブレてしまいます。小川耕太郎と事業をはじめて25年が経ちますが、彼の良いところは、どんな場面であってもブレずに決断できるところです。まっ、その背景にはスタッフの並々ならぬ気配りがあるのですが(苦笑)。小さな事業所の良い点はそういう点です。私自身は小さい規模で仕事が続けられていることを幸せに思います。

その点、今の30、40代の中には、もはや環境問題や地域経済の循環を当たり前のように事業に組み入れている人も多くいます。彼らは自身の会社だけにこだわらず、外部との協働チームをつくり、様々な事業展開をしています。答えがない時代に突入し、社会的課題の解決を事業に組み込むやり方も日々変化していますので、これからの世代に学ぶことは多いです。

答えがない課題が多い時代ですから「行動しながら考え、定期的にブラシュアップをする」ことが大切だと思います。

つづく

(文章)小川百合子(おがわ・ゆりこ)
小川耕太郎∞百合子社 取締役。 主な仕事は持続可能な商品の一般化のためのPR。 1998年、山一證券が倒産した年に、夫婦で起業。地域の生物資源と産業(技)と自然が循環できることをコンセプトとした持続可能な商品づくりを目指す。

連載BLOG:サスティナブルな5つの行動(ウッドロングエコversion)


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