2022.12.28

[vol.3]設計事務所と製材所、2社の代表となる

補助金がなくても地域材の活用を促進させる仕組みづくり

小川社を起業した1998年からかれこれ24年たちましたが、その間毎年のように「地域材利用促進のための政策」「CO2対策のための地域材利用促進の政策」など、各省庁から地域材を活用するように促す動きがでています。しかし、残念ながら補助金ありきで事業をはじめた結果、その制度がなくなると同時に自然消滅してしまう事業は山ほどあります。

現在も、地域という単位を意識したサーキュラ―エコノミや社会活動は活発化しています。


そのような社会情勢の中、補助金に頼らずに地域材の利用を促進させる仕組みをつくり、地域材の需要を促している事業家、石田伸一建築事務所(以下、SIA inc.)の代表取締役の石田氏の行動が注目を集めています。

「地材地建」は安心して住み続けられる持続可能な街へとつながる

企画住宅一例 設計:SIA inc.




大手ビルダー出身の石田氏は、当初から社内ベンチャーを立ち上げ、地域材を使った企画住宅を提案し、軌道にのせてきました。企画住宅とは、建築のプロが作りたいと考える住宅を企画し提案することです。施主様にとって家は大きな買い物なので、新しい家でしたい夢や間取りなどが気になるところですが、施主様の声を全面に反映させて図面起こしをすると、構造が複雑になったり、水回りや電気の配線も複雑になり、例えて言うならばパッチワークのような状況になって予算オーバーになってしまうことが多々あります。


もちろん、施主様が住む家なので細やかに声を拾いあげていくことは大前提ではあります。しかし、住宅で一番大切なことは「長く住む」「寒い新潟で快適に住む」ということ。それらを大切した「企画住宅」を提案しているそうです。

家を建てた経験がある方なら、一軒の家を建てるにあたり、実にいろいろな産業や業種が関わっていることに気が付いたのではないでしょうか?これらの技術の繋がりは、地域で維持していく事が大切です。地域の材をつかい地域の人で建てる「地材地建」は、結果的に施主様にとっても地域にとっても安心して住み続けられる持続可能な街へとつながっています。

設計事務所と製材所の2社の代表となる

UC Factory /画像:UC Factoryインスタグラムより

2018年に石田氏はSIA inc.として独立し、2020年に谷内製材から事業を譲渡され、UC Factoryを立ち上げ、現在は設計事務所と製材所の2社の代表となっています。

キッカケは、独立する前から取引があった谷内製材の廃業。自ら、製材所の代表として手を挙げたのだそうです。


製材経験もないのに製材所の運営をするというのは余程の決意があったのではないかと想像します。なぜなら、製材所は機械・人・工場・材の仕入れなど巨額の資金が必要で、日本全国で小さな製材所の撤退を聞くからです。一体、どのようにして運営してきたのか?個人的にもとても興味がありました。


厳しい状況でありながらも、石田氏は「新しく製材所を開設にするには、巨額の設備投資が必要なので新規参入が少ない。だからこそ、今は逆にチャンスだ」と捉えたのだそうです。新型コロナ対策の新規事業融資を受け、それを運転資金として、谷内製材の従業員はそのまま新会社UC Factoryの従業員に。製材所を買い取るのではなく、製材所の敷地や製材機材を谷内製材から賃貸するという形ではじめました。

その行動力の源は
『新潟の製材所は小規模で数が少ない。地域から製材所がなくなって森林資源の循環が途絶えると、「地材地建」が成り立たなくなる。』という想いにあるのだそうです。

地域材の見える化

一般的に、「構造材」には地域材利用促進の補助が出やすい傾向があるため(最近では内装や外装にも補助がでています)地域材は構造材としてつかうことが多くあります。しかし、構造材は家が建った時点で、壁で隠れてしまうケースが多く、外からみえる外壁、デッキ・フェンス・ルーバーなどは新建材をつかうケースが多いので、通りからみると「地域材の家」「木の家」とは気が付きにくかったりします。

石田氏は独立前から外壁・デッキ・フェンス・ルーバーに魚沼杉をつかって地域材の「見える化」をし、外からみても一発で「木の家」とわかる家を設計しています。外構に木材が使われれば、地域材を使用する量が多くなるため、製材所にとっても利益がでやすくなるということも理由の一つでした。

北区コートハウス /設計:SIA inc.  シンプルな中に表情がある外観。一般規格の材を上手に組み合わせ変化を持たせている

製材所には継続的に
一定量を発注をし、
情報を共有すること。


現在、SIA inc.では年間15棟(県内)・15棟(県外)くらいの設計を請けており、UC Factoryの生産・販売計画量の7割以上を賄います。設計という仕事は前もって木材の発注予定が立つため、製材所にとっても年間計画が立ちやすく、ある意味、SIA inc.はUC Factoryにとってありがたいお客様でもあります。また、新潟で「住学(すがく)」という学びの場を開催しており、そこで出逢った仲間の物件も請けることもあるため、小さな製材所でも継続的に一定量を請けることができ、安定した仕入れと製材計画が立って、安定経営ができているのだそうです。


また、製材所の従業員には、自分たちで加工した材が実際のどのような使われ方をしているのか伝える機会をつくり、利用者の反応などが見える関係をきずくことで、従業員へのモチベーションにつなげているとのこと。こうした取引や交流により互いの情報交換ができるようになり、業者同士が「同志」のような存在になるという変化がみえてきたそうです。

(画像:SIA inc.インスタグラムより)
UC Factoryメンバーに複合商業施設「NEST女池神明」へきてもらい、伐採し製材した材が使われた場所を一緒にみて、お客様の反応と笑顔も一緒にみる。

魚沼杉は、
大径木が多いため
赤身の面積が大きい。
外壁材として適材!

実は、新潟県は林業県ではなく、木材の年間生産量は針葉樹で15万㎡程度、その中で魚沼エリアは1万1千㎡で新潟県の木材の8%程度です。魚沼杉の特徴をあげると、、

[3つ特徴]

(1)大径木が多く樹齢70年以上で赤身が面積が大きい画像:UC Factoryインスタグラムより。黒芯材は乾燥しづらく手がかかる材料だが、屋外につよい。

(2)雪国なので木の成長が遅く、木目が詰まっている

画像:UC Factoryインスタグラムより

(3)一方、成長期に枝打ちなど手入れがされず節が多い
画像:UC Factoryインスタグラムより

画像:UC Factoryインスタグラムより


上記の3つ特徴を生かすと「屋外につかう外壁材・ルーバー材」が適材であることがわかります。

効率よく製材をする

魚沼杉の大きな特徴は「赤身の面積が大きい」ため「屋外用」の材に適している点です。


例えば、デッキ材は間柱につかわれる30mm×120mmと兼用し、ルーバー材の場合は、野縁につかわれる30mm×40mmと兼用しことで効率化を図れます。

屋外につかうデッキ材やルーバー材はウッドロングエコで塗装します。節などの表情のバラつきは、ウッドロングエコを塗布することで茶グレーへと変色し落ち着いた雰囲気になります。

UC Factoryでは、屋外に使う木材は、水槽にウッドロングエコ水溶液をいれ浸しながら塗り、含侵率を高めています。

住宅以外の木材需要を
掘り起す
プロダクトデザイン

以前、海外で活躍する建築家は、建築もすれば、プロダクトや舞台美術もするし、映画を撮ったり、民俗学の調査をしている人もいると聞いたことがあります。石田氏の仕事を拝見したとき、海外の建築家みたいだな~と思っていました。彼は「建築家という見地」と「製材所の知識」を融合したプロダクトデザインが特徴です。

何点かピックアップします。


▲UC Cabin(約2.63坪の小屋)
▲造作ダイニングテーブル

人口減少により住宅需要が減り、また、定住にこだわらなくても良いリモートワークのような働き方が出てきています。時代のニーズにあわせた小屋兼書斎や住宅以外の需要を掘り起こしたプロダクトデザインは、これからもさらに需要がでてくることと思います。


地域材を軸とした循環経済活動と技術の輪、そして「地材地建」は、新潟の未来へつながっていくでしょう。


(続きをよむ)


[文章]小川百合子(おがわ・ゆりこ)
小川耕太郎∞百合子社 代表取締役。 主な仕事は持続可能な商品の一般化のためのPR。 1998年、山一證券が倒産した年に、夫婦で起業。地域の生物資源と産業(技)と自然が循環できることをコンセプトとした持続可能な商品づくりを目指す。

[連載BLOG]

【ウッドロングエコ×地域材】をコンセプトとした、インタビューBLOG「ウッドロングエコと人」はこちらからご覧ください。

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