2023.04.24

[Vol.3]パトラック の空間づくり

インタビュー:株式会社パトラック/一級建築士 安宅研太郎さん

前回のBLOGでは、木の外観の経年についてお話を伺いました。今回は、ほどよくつながりつつ個をもつ「居心地」という空間についてお話を伺いました。

狭山ひかり幼稚園の日常。
撮影:masaco(アタカさんinstagramより)

自分がここに居てもいい、
と思える空間づくり

医療や福祉・教育施設の設計を多く手掛けられている株式会社パトラックの安宅(以下、略アタカ)さん。アタカさんのつくり出す空間には、どれも居心地の良さを感じます。

アタカさん)

居心地がいいかどうかっていうのは、なかなか説明ができないし、設計の指標になりにくいというか、共有しにくいものだなと、長年思っていたんですけど。

狭山ひかり幼稚園』の園長先生が『自分たちが小さい時に大切にされていたとか、自分がみんなに求められていた、ということを記憶していれば、その先どんな困難に出会っても大丈夫な子に育つんじゃないか、と思って接している』ということをおっしゃっていて。

子供たちが、そういった肯定感を感じることに建築がどう答えているかっていう説明の中で、園長先生が『「居心地がいい」ということは、「自分がここにいていい」ということですよね』と端的に答えられていたんです。

そこで行われる活動と、空間の居心地や空間のあり方が密接に絡んでいるということを、本当に僕はその言葉で実感したんです。

かがやきロッジ(岐阜県岐南町) 撮影:ToLoLo studio 
株式会社パトラック HPより)

これまでに手掛けられた医療福祉施設はどれも、みんなで何かを一緒にやる、というよりも、いろんなことをやってる人たちが同時に居合わせられるような場所づくりを目指されていたそう。

アタカさん)

声が大きい人、控えめな人にかかわらず、みんなでいい距離感でいられることを考えると、初めて来た人でも、ここは自分の場所だと思ってもらえる。自分の場所を見つけられるような感じになっているかどうかが大事だなと思いました。

振り返ってみると、自分のこれまでの建築に共通して、全体のつながりと小さな個別の居場所があるということを、両立させながらつくっている作品が多いなと思いますね。

小さな居場所の関係や、距離の取り方とか、見え隠れの仕方とかで、ひとつずつの場所のあり方と心地よさ、自分の場所だと思えるようなあり方などをずっと模索してきたように感じています。

個々を大切にする空間

診療所と大きな台所があるところ「ほっちのロッヂ」(長野県軽井沢町)
GOOD DESIGN AWADRD 2022 コミュニティづくりの取り組み活動として特別賞受賞
第10回アジア太平洋地域・高齢者ケアイノベーションアワード2022ソーシャルエンゲージメントプログラムグランプリ受賞(日本初) 
株式会社パトラック HPより)

アタカさん)

『ほっちのロッヂ』では、「スタッフやサービスをする側」と「される側」を分けたくない、「病気をもっているか」「病気をもっていないか」ではない形で人と出会いたい、と施主さんがおっしゃっていて。

建物の中に地域の人と活動できるスペースを作ったのは、患者さんになったり、利用者になる前に出会いたいという思いがベースにありました。

建築はプロジェクトごとに施主さんの考え方が一番大切だと思っているので、施主さんの影響を受けているところは大きいですね。とはいえ、以前の建物を思い出しても似たようなことを考えていたな、という気はしますね。

僕が一番最初に建てた建築は、自分の実家で、両親と祖母と姉とたまに帰ってくる僕が暮らす家でした。全員大人である五人が一日中ダインイングテーブルを囲んでいるわけではないので(笑)、それぞれが気配を感じながら、よい距離感で限られた空間の中にいるにはどうしたらよいか、というようなことを考えてつくりました。

個室にこもるのではなく、みんなでいる気配は大事、でもそれぞれが個別に居られるということも大事。振り返ると、それがなんかずっと今につながっているような気がしますね。

ほっちのロッヂ(長野県軽井沢町)
株式会社パトラック HPより)

ほっちのロッヂ × アートトーク!

「人生会議」をする??

アタカさんの記事を書くにあたり、設計された医療施設のWEBサイトを読みあさっていた時にこのようなWEBサイトがでてきました。「ほっちのロッヂ」にて写真展が開催され、その写真は訪問看護師として訪問先で撮影した写真だという。


開催中には、写真家の尾山直子さんとケアの現場にいる「ほっちのロッヂ」の皆さんとのトークイベント『「人生会議」を文化にする』というイベントも開催されてたと知り、この医療現場では様々なコミュニティづくりが生まれているんだろうなと実感しました。

ある意味、ここの医療施設で働く人も、従来のカテゴリーでわけていた境界線をほぐし、多種多様な人が集まり対話を重ね、あらたに再構築し、あたらしい医療の仕事をつくっているようにみえました。

木があたえる居心地の良さ

アタカさん)

建物のどこかに木質なものを使った場所があると、匂いも含めて気持ちを落ち着かせる気がしますね。

建築って、その建物に入ってワクワクしたり高揚感を与えるつくり方もある一方、腰掛けて本を読んだり、その場所にずっといてもいいなと思えるような場所の作り方があって、そういう場所は木質なものを天井や壁に使っていると良い影響があると思います。

最近は医療系や福祉系の建築の仕事が多いので、割と積極的にそういうつくり方をしていますね。



つづく


参照資料

ほっちのロッヂ×アート・トーク#1「ケアの現場で撮る」を考える ほっちのロッヂ × アート・トーク #2「人生会議を文化にする」 「わけるから、わからないー医療とわたしのほぐし方ー」 make.F

インタビュアー:速水 貴子


速水 貴子(桜茶屋デザイン)
小川百合子(小川耕太郎∞百合子社)

【ウッドロングエコ×地域材】をコンセプトとした、インタビューBLOG「ウッドロングエコと人」はこちらからご覧ください。

フリーマガジン(無料)を希望される方はお電話にてお問合せください。 0597-27-3361(小川耕太郎∞百合子社)

記事一覧を見る