2023.12.08

第4話 コミュニティビルドでつくる “ファンタジーと現実のはざま”

kiwiの設計図(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

田端佳織さんと昇さんご夫妻、そして「げんげのはらっぱ」野田哲生さんとの「コラボビルド」でつくった「絵本と子ども道具kiwi」の小屋。さらに多くの人を巻き込んで、できる限り地域の資源を活かし、さまざまな職種の人たちが混じり合いながら建築する様子は、「コミュニティビルド」と呼ぶこともできそうです。

リアルでのつながりが昔と比べると希薄になってしまったこの頃ですが、田端さんご夫妻は、持ち前の行動力と、今まで培ってきた仲間との関係性を駆使して、このプロジェクトに挑みました。

円形の小屋の壁の胴縁は、9mm厚の薄い胴縁を使う。現場で曲げながら9mm厚の板を三枚重ね、支柱の丸太に固定した。この横胴縁のお陰で、佳織さんが夢見たシーダーシェイクも、カーブ形状に無理なく固定ができた。(絵本とこども道具kiwi Facebook より
断熱材のフォレストボード(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

天井や壁の断熱材には、杉の皮をコーンスターチを固めてつくったフォレストボードという製品を採用。木と澱粉でできたものですから、もちろん自然に還すことができる素材です。また、小屋の床下には籾殻燻炭が充填されており、こちらも断熱効果を発揮します。

シダーシェイクの外壁(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

kiwiの建物のチャームポイントのひとつはこのシダーシェイクの外壁。シダーシェイクというのは、ウェスタンレッドシダーという木を手割りで板にしたもので、これを下から上に向かって、みのむしの蓑のように重ねて張っていきます。シダーシェイクの外壁は佳織さんの憧れで、kiwiの新店舗をつくるにあたって、絶対に取り入れたいものの一つだったそうです。

わざとムラが出るように塗ったシダーシェイク

シダーシェイクの板には、ウッドロングエコと鉄媒染(てつばいせん)液を合わせたものを、わざとムラを出しながら塗布して表情を出しています。新築なのに、ずっと昔からあるかのような味のある色合いになっており、この色味は経年とともにさらに深みを増していきます。

クラウドファンディングで、仲間を増やす

絵本とこども道具kiwi Facebook より)

外装も、内装もある程度完成が見えてきた頃。建前からは1年半ほどの月日が流れていました。昇さん、野田さんを中心に、試行錯誤を繰り返しながらの作業には、どうしても時間も手間もかかり、同時に費用もかさんでいくものでした。

そこで打った次の一手が、クラウドファンディングでした。手元に費用が早く届くこと、そして手数料が抑えられることから、クラウドファンディングのプラットフォームは使わずに、kiwiのオンラインショップで行うことに。

リターンは、kiwiで販売している「美味しいものセット」やイベントへの参加権のほか、kiwiの店づくりのお手伝い、というものも用意したそうです。いざスタートしてみると、なんとたった1日で40名の支援者が現れ、40万円弱の資金が集まりました。一ヶ月間の期間で、最終的には212名から160万円近い資金が集まったそうです。

リターンの「美味しいもの」(絵本とこども道具kiwi facebook より)
リターンの「ハーブと野草の会」での食事(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

驚いたのは、リターンの「kiwiの店づくりのお手伝い」にも20名近い方からの支援があったということ。資金で応援した上に、ボランティアでお手伝いもしてくれるなんて。まさに神様のような存在です。でも、絵本の中から飛び出してきたようなkiwiの世界に、実際に手を動かしながら自分が関われると思ったら、それは確かにとても価値のあること。

既存のクラウドファンディングサービスを使わずに、これほどの支援を集めてしまうだなんて、なかなかできることではありませんが、それはkiwiだから、と思うと途端に腑に落ちるのでした。

みんなでつくると、楽しい

お手伝いに来た方々と漆喰塗り(絵本とこども道具kiwi Facebook より)
土壁は通気性が高く、調湿効果もある(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

漆喰を塗り、土壁を塗り、塗料を塗り…。「塗る」という作業は比較的簡単なので、子どものお手伝いさんも大活躍。初めての作業でも、だんだんとコツを掴んでうまく塗れるようになっていくのが楽しかったりします。つい無口になって作業に集中していても、ふっと一息つきたい時に隣に誰かがいてくれるというのは、とても心強いこと。おしゃべりも弾みます。

土壁は1年ほど前に何度か塗り重ねていたものが一部剥がれ落ちてしまっていたので、みんなで塗り直し。手間はかかれど、その分愛着も湧きますね。

2階の屋根裏部屋のようなスペースの床には小川社の未晒し蜜ロウワックスを(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

2階にあるスペースはまるで秘密基地。床は無垢材のフローリングで、こちらは小川耕太郎∞百合子社の未晒し蜜ロウワックスを塗っていただいています。未晒し蜜ロウワックスは、蜜ロウとエゴマ油だけでできている自然塗料。小さなお子さんやペットのいる環境でも安心です。塗ると木目が柔らかく浮き上がり、表情が出ます。

未晒し蜜ロウワックス
蜜ロウワックス塗布後の床で。気持ちよさそう(絵本とこども道具kiwi Facebook より)
レンガを敷き詰める(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

店内には少しずつ商品が並びはじめ、土壁も完成か?と思われる頃、大きなひさしの下のスペースにレンガを敷き詰め始めました。これ実はとても根気とセンスがいる作業なのだとか。ちょっとズレただけでも、そのズレがきっかけで、どんどん大きなズレへと成長してしまうのだそうです。このレンガも、使わなくなったものをいただいてのリユース品です。

待ちに待ったグランドオープン

グランドオープン直前のkiwi(絵本とこども道具kiwi Facebook より)
kiwiの看板は、彫刻家のはしもとみおさんの作品
近所のパン屋さんからのオープンのお祝い(絵本とこども道具kiwi Facebook より)
「魔女感をあげるため」に用意したというホウキ(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

この日を待ち望んでいたのは、佳織さんや昇さんだけではないでしょう。お店づくりに関わったすべての人々、亀山にお店があった時からのお客さん、近所の方などなど、大きな期待の中、「絵本とこども道具 kiwi」は2021年7月30日に無事にグランドオープンを迎えました。

「げんげの原っぱ」野田さんと、野田さんが制作したキウイの椅子(絵本と子ども道具kiwi Facebook より)
オークションで購入して取り付けた船窓は黒猫あんちゃんもお気に入り(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

「実験」はまだまだ続く

整地の際に出てきた石や、解体された民家などで使われていた石を引取り、庭石や石垣に再利用。石積みも自分たちの手でおこなった(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

グランドオープンの後も、kiwiはまだまだ進化を続けます。オープン翌年の春には、お庭の造成工事が始まりました。ご近所のご友人から頂いたものだという石を配置し、その石沿いに溝を掘り、藁や木の枝、炭、パイプ、廃瓦を入れて、水や空気が通りやすくなるように施工。こちらも昇さん+助っ人での作業だったそうです。

藁や竹、木の枝などを使って土留めをし、その上に芝を敷きます。エルダーやスイートマルベリーなどをはじめとする木や、ワイルドストロベリー、カモミールなど様々なハーブも植えました。

お伺いした頃にはラベンダーやコスモスが見頃を迎えていた

植栽のイメージは佳織さんが発案し、昇さんが図面を描いたそうです。日当たりや、お客さんが訪れた際の見え方などを考慮し、庭の植栽がデザインされています。自然の中で育った子ども時代から、野原や野草が好き、という佳織さんの原風景が反映されたお庭です。

草屋根にも断熱効果がある(絵本とこども道具kiwi Facebookより)

kiwiの特徴の小屋の特徴的なポイントのひとつに「草屋根」があります。店を作るならば絶対に草屋根にしたい!という佳織さんの強い希望で取り入れられたもので、見た目がかわいいという他に、室内の温度変化を抑えるという効果もあるのだとか。

草屋根というのは実はなかなか難しいもので、これまでに、クローバーの種を蒔いたり、芝のシートを試したり、時には庭に生えている雑草を根ごと植えてみたりと「実験」の最中のようですが、青々とした草が生い茂る草屋根が完成するのは今からとても楽しみです。

kiwiの存在が、「ファンタジーと現実のはざまのようなものでありたい」というのは佳織さんの言葉。暗いニュースばかりが目に留まり、あまりに速い世の中のスピードについていけないような気持ちになってしまうこともある現代での暮らし。そんな今だからこそファンタジーの力が必要なのだと、kiwiで過ごす時間が教えてくれるような気がしました。

田端佳織さんを囲んで、小川百合子さんと

(文 : 本沢 結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。

「ウッドロングエコと人」は”人”と”地域材”にフォーカスした読み物です

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