2023.12.08
第3話 「田端家の理想の小屋」から「みんなの理想の小屋」へ #新kiwiができるまで
子どもの頃に憧れた世界が、そのまま目の前に現れたような可愛らしい店構えに、ここは本当に日本かしら?と目を疑ってしまいます。「絵本とこども道具kiwi」の建物は、店主の田端佳織さん、夫の昇さんの夢と、関わった多くの人の思いが詰まった小屋。たくさんの人を楽しく巻き込み、つくる過程でもファンを増やしていった、kiwiの店舗作りのお話。kiwiのSNSでも、#新kiwiができるまで というハッシュタグでその経緯を知ることができます。
松ぼっくり?みのむし?ホビットの家?と形容する言葉が無限に浮かびそうな、特徴的なkiwiの店舗。佳織さん、昇さんに、「げんげのはらっぱ」の屋号で活動する家具職人であり、こや大工である野田哲生さんが加わり、三者で話し合いながら形作られた建物です。
デザイン原案、棚やトイレ、扉、造成工事などは佳織さんや昇さんが担当。デザイン案を図面に落とし込んだり模型を作るところから、小屋の大部分は野田さんの施工で、「セルフビルド」というよりは「コラボビルド」という言葉がぴったりとくる小屋作りだったそうです。
(げんげのはらっぱ)が担当
「あなたの稲藁がkiwiの壁になります」
家を建てるためにまず木を切り、小屋を建てるためにまず稲藁を集める。
田端ご夫妻がつくるものの始まりは、一般的な「スタート」の一つも二つも手前にあります。
土壁の土に混ぜる稲藁は、SNSを使って集めました。
「あなたの稲藁がkiwiの壁になります」そうSNSで呼びかけをおこない、実際に集めてしまうのですから、お二人の繋がりの広さには感服するばかり。そもそも土壁って自分でつくれるの?と思ってしまった、工業製品に慣れきった自分の知見の狭さに恥入ります。昔はみんなそうやって家を建てたり修復したりしていたんですもんね。
kiwiの土壁の土は、解体したお宅の土を再利用したものだそうで、何度も繰り返し使える上に、最後は土に還る、というのが素晴らしいところ。
自宅同様、店舗にも、もともと敷地に生えていた木を伐採して使用します。皮を剥く作業などは昇さんが自ら行い、製材は地元の製材所にお願いしたそうです。材料の調達や準備など、できる限り自分たちの手で行うこと、可能な限り再利用できるものはする。理想や考え方、そして生き方が強く反映された、kiwiらしい小屋作りです。
ヒノキやスギが生えていたこの土地。木はきれいに伐採し、整地も昇さん自ら行いました。
いよいよ建前、という日の写真。ここから約2年間にわたる小屋づくりが始まります。施主の佳織さんにとっては初めての経験。建築の基礎的な知識も日々勉強を重ねて頭にいれていったといいます。佳織さん、昇さん、野田さんを中心としながらも、友人知人をはじめとするボランティアの協力も得て、ゆっくり、そして着実にあのkiwiが形作られていきます。
それぞれの持ち味を活かして
いよいよ小屋の構造に着工。木こりの昇さん、家具職人で「こや大工」の野田さんに加え、お弁当屋さん、有機農家さん、金属作家さん…などなど、次々と協力者が現れます。みんなが楽しみながら、kiwiを作り上げていきます。
仕事というわけでもなく、みんなで力を合わせて何かをつくるというのは、現代ではなかなか得難い経験となってしまっています。家を建てるとなれば、集落中の人たちが集まり、それぞれの持ち味を活かして協力しあう、というのはかつて当たり前にあった光景で、それを通して人同士、家族同士のお付き合いも濃密なものになっていたのでしょう。
お互い困った時には助け合う、セーフティネットにもなるコミュニティが、kiwiを中心として穏やかに立ち上がっていく過程でもあったのではないでしょうか。
建物の構造が段々と出来上がり、ピラミッド型の屋根をスポッと載せます。こちらも昇さんの作業。ここまで来ると、建物の全体像が見えてきて、気持ちも盛り上がります。
kiwiはこのあと、クラウドファンディングも活用しながら、子どもから大人まで多くの人の支持とサポートを受け、小屋をつくりあげることになります。続きのお話はこちらから。
(文 : 本沢 結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。
VOL.1 絵本とこども道具kiwi
暮らしの喜びと感動を分かち合う
絵本とこども道具kiwiの店づくり
VOL.2 絵本とこども道具kiwi
つながる、つなげる
~未来を見据えた 森と店づくり~
VOL.4 絵本とこども道具kiwi
コミュニティビルドでつくる
「ファンタジーと現実のはざま」