2023.12.08

第2話 つながる、つなげる 〜未来を見据えた森と店づくり〜

子どもも大人も、人も自然も、みんが心地よいと感じられる空間で、絵本やおもちゃ、体に優しい食品や調味料、自然素材でつくられた雑貨などを扱う「絵本とこども道具kiwi」。愛らしくてユニークなお店の横には、kiwiの店主・田端佳織さんと夫の昇さん、そして4人の子どもたちが暮らす家があります。

背後には立派な木がそびえるこの土地、実は元々は森だったのだそうです。土地を造成し、自宅を建てるまでのこと、そして森へのビジョンを、田端昇さんに伺いました。

まず、森を伐り拓く

「木こり」の田端昇さん ©ウラタタカヒデ

現在kiwiと田端家の自宅がある土地は、元は杉や檜が生い茂る森でした。友人から託された私有林を伐り拓いたのは、kiwiを運営する田端佳織さんの夫、昇さんです。いなべ市で林業の職に就いていた昇さんは、2015年頃から木の伐採を開始。切った木は乾かして木材とし、自宅や店舗に使いました。木材自給率はなんと50%(!)だというから驚きです。地産地消の最たるもの、という感じがします。

伐採した木は乾燥させて木材や薪として使用 ©ウラタタカヒデ

そうして整備した土地に、まずは自宅を建てました。信頼のできる大工さんに依頼し、柱や梁、外壁など全てに木を使って、4年の歳月をかけて建ててもらったのだそうです。

昇さん自作の鶏小屋(絵本とこども道具kiwi Instagramより)

田端さん夫妻と子ども4人。大切な住まいの周りには、自作の鶏小屋や薪小屋、作業小屋など小さな小屋も点在しています。自然との接点を強くもち、環境や体に配慮した暮らしの実践は、「パーマカルチャー」との出会いがきっかけだったと言います。

昇さん自作の薪小屋(絵本とこども道具kiwi Facebookより)

パーマカルチャーの視点から

若い頃に全国を旅しながら農業や酪農と関わる中で、自然との向き合い方を真剣に考えるようになったという昇さん。東京で穀物採食の料理教室に参加したことをきっかけに、亀山市にかつてあった「月の庭」というオーガニックレストランを訪ね、亀山市に移住。「月の庭」のスタッフとしても経験を積みました。

旅をしながら出会った、「パーマカルチャー」という人と自然が共存する社会をつくるためのデザイン手法に共感し、パーマカルチャー・アカデミー・ジャパンのパーマカルチャーデザイン認定 (PDC) コースを受講。現在もパーマカルチャーデザイナーとして活動しています。

パーマカルチャーというのは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、持続可能な社会を目指す、人間の暮らしや営みへの包括的な提案です。地球への配慮(Care of the earth)、人々への配慮(Care of the people)、余剰物の共有(Fare share)といった三つの倫理が軸となっている考え方です。

森との関係人口を増やす

過疎や人口減少が深刻な地方地域では最近特によく聞くようになった「関係人口」という言葉。移住、となるとハードルが高くなってしまうところを、ただ一回限りの観光でもなく、地域や地域の人々ともっと密接に交わる人々のことを指します。昇さんはこの「関係人口」という言葉を森にも適用します。

1970年代にパーマカルチャーを提唱したビル・モリソンが、パーマカルチャーの目的を「地球上を森で覆い尽くすこと」と言っているように、森はパーマカルチャー視点からもとても重要なものの一つ。

昔は人間の営みの場であり、自然の恵みをいただく場であり、子どもの遊び場でもあった森。しかし現代では、林業家など一部のプロだけが関わるものになりつつあります。森が身近にない環境に暮らしていると、森のイメージは怖いものですらあるかもしれません。

kiwiと田端家の脇にある森。こちらから向かうと、森がひらけた先に店が現れる。

そんなイメージを払拭し、多様な人々が気軽に森に入れるように。森との関係人口を増やしたい、というのが昇さんの思いです。

ちょっと想像してみてください。果樹や薪炭林、花木が生い茂り、焚き火ができる憩いの広場のある、子どもたちと一緒に生態系を感じながら学ぶことのできる森を。季節ごとに実った果樹や野菜を収穫し、みんなでシェアする。その豊かで楽しそうな空間に思わずわくわくしてしまうのは私だけではないはずです。

その土地と、そこに関わる人に合わせた森づくりをすることで、森と人との距離はグッと近づきます。膨大な労力のかかる森林の維持管理には課題もありますが、将来の世代に引き継いでいこうという試行錯誤が、一筋の希望のように思えます。

暮らしとつながる、パーマカルチャーの実践

パーマカルチャーデザイナーという肩書きをもちながら、今も時間を見つけては、日々パーマカルチャーとその実践についての学びを深めている昇さん。田端家の暮らしや、kiwiの在り方にも、その考え方は深く根付いています。

シダーシェイクの外壁にはウッドロングエコと鉄煤染液を混ぜたもが塗布されている
ウッドロングエコ

家や店舗を建てる際にも、木材の自給をはじめ、解体した民家の壁や石材、木戸などを再利用したり、土壌を汚染しない小川社のウッドロングエコを外壁に使ったりと、環境への負荷を最小限に抑える工夫が凝らされています。

取材の際に見せていただいたのは、「アースラブ」という商品を使用したkiwiのバイオトイレ。トイレの便座も蓋も、窓も、手洗い器・台も全て、昇さんの手作りです。

アースラブは、三重県度会町のアースラブ・ニッポンという会社が作っている、微生物をたっぷりと含んだ土。トイレの底の不織布バッグの中にアースラブを入れておき、用を足した後に新しいアースラブを振りかけるだけで、いやな匂いが全くしないのだそうです。

不織布バッグがとりだしやすいようにレールが取り付けられている(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

不織布バッグがある程度いっぱいになったら取り出して、3週間ほど蓋をしておいておくと、トイレットペーパーも丸ごと微生物が分解してくれるので、再び母材として使えます。水さえも使うこともなく、アースラブを循環させて排泄物の処理ができる、というのは災害時にも活躍しそうです。

種の交換所(絵本とこども道具kiwi Facebook より)

kiwiの店内に設置されている「種の交換所」もパーマカルチャー的な取り組みのひとつと言えます。棚には、自家採取された固定種や在来種の種が入った瓶が並び、採取された場所と時期が記入されていて、お金を介さずに、種をもらったり持ち寄ったりします。

自分で種取りをしてみるとわかるのですが、来年また同じように撒くには、多すぎる量が採れるもの。これを必要な人と分かち合い、またその人が余剰分の種を持ちよって…という具合に、種がぐるぐると循環することになります。

育て方や、咲く花の色など、植物についての情報交換の場としても機能しているようです。

他にも、雨水を溜めておいて植物の水やりに利用したり、ソーラー温水器の導入、薪ストーブの設置など、環境に配慮した取り組みは至るところにみられます。

どこを切り取っても、自然環境や人間そのものへの労りの精神が現れるkiwi。次の第3話の記事では、kiwiの小屋作りについて、さらに詳しく伺っています。

(文 : 本沢 結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。

「ウッドロングエコと人」は、”地域材”と”人”にフォーカルした読み物です。

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