2023.12.08

第1話 暮らしの喜びと感動を分かち合う 「絵本とこども道具kiwi」の店づくり

「物語の世界に迷い込んだかのよう」と思わず言わずにいられない、夢のような佇まいのお店があります。

三重県いなべ市にある「絵本とこども道具 kiwi」。絵本や、暮らしにまつわる書籍をはじめ、選りすぐった食品や雑貨などを扱うお店です。SNSでその存在を知ってから、必ず訪れたい場所の一つとして胸に留め続け、この度念願かなって取材に伺うことができました。お店のこと、建物のこと、これまでの経緯など、お店を営む田端佳織さん、夫の田端昇さんにお話を伺いました。

自分が欲しいと思うものを

「絵本とこども道具 kiwi」は、2011年に三重県の亀山市で誕生したお店。佳織さんが子育てと仕事をともにこなす中で、自分の子どものために買いたいものが身近になかったことから、絵本やおもちゃ、暮らしの道具などを扱うお店を開いたのだそうです。その後、お子さんの進級などの関係で新天地を探していた際に、現在の自宅と店舗のある土地を友人から託され、いなべ市への移転を決意。もともと夫の昇さんがいなべ市で林業の仕事をしていたことや、知人・友人が多くいたことも決め手になったそうです。

2018年に亀山を後にし、準備期間を経て2021年7月に現在のいなべのお店をオープン。評判を聞きつけて訪れる県外のお客さん、歩いて(!)来てくれる近所の方など、遠くから、近くから、さまざまな人が足を運んでいます。

絵本は表紙が見えるように並べられ、手に取りやすい

絵本は最新の新刊情報などもチェックしながら、出版されたばかりの新しい本、読んでよかったもの、読みたいと思ったものなど幅広くセレクトしているそう。動物や植物、山や川など、自然にまつわる本が多く、とても楽しい本棚です。一般書籍は、ハーブや野草、自然、農業、食、暮らし、などに関連するものがたくさん並んでいました。

調味料やジャム、スパイス、カレー、はちみつなど様々な食品が販売されている

食品や雑貨も多く扱っています。伝統製法で作られた食品、調味料、自然に寄り添った商品、安心して食べられるものなど、佳織さんが「良い」と思ったものが並べられています。kiwiを開く前に「岡田屋本店」という、自然食品などを扱うお店で働いていた経験を活かし、食品を売って欲しいという要望も多かったことから、いなべの店舗では幅広い食品を扱うようになったそうです。

岡田屋本店では、以前から小川社の「未晒し蜜ロウワックス」を取り扱っていただいており、その繋がりで佳織さんも小川社の商品を知ってくださっていたようです。

佳織さんが拾った栗 (絵本とこども道具kiwi Instagram より)
自然農で育てられたトマトとミニトマト(絵本とこども道具kiwi Facebookより)

この日は佳織さんが自ら拾った栗や、自然農でつくられたトマトなども並んでいました。他にも、伊賀市にある愛農学園農業高校で作られたハムやベーコン、平飼いの卵、野菜など、手に取ると温かい気持ちになれるような、つくり手のとの距離が近い商品ばかりです。

秘密基地のような2階の空間。床には小川社の「未晒し蜜ロウワックス」が塗られている。
2階へ続く階段は節などを活かし、一段一段形が異なる。でこぼこが楽しい。

店の奥にある階段をのぼると、いかにもお子さんたちが喜びそうな、屋根裏部屋のようなスペースが。佳織さんが個人的に集めた絵本や、子どもたちに読んできた絵本などが並べられ、「kiwi文庫」としてライブラリーの機能も持ちます。

大人になって久しい私たちさえも童心を取り戻していくような、わくわくする空間です。月に一度、「すみっこサロン」というセラピストさんによるプライベートサロンにもなります。

暮らしの延長線上で

kiwiでのイベントの様子(絵本とこども道具kiwi Instagramより)

kiwiでは、毎月多くのイベントが開催されています。例えば、2023年10月はこんな感じです。
くさぎ染め、いがぐり染め、栗ご飯と味噌汁を楽しむ会、出張ヘアカット、出張サロン、パンの販売に焼き菓子の販売…などなど。絵本の原画展や、夏はソフトクリームの販売なども行われています。

「くさぎ染めの会」クサギという植物の実を使って、淡い青色に染める(絵本とこども道具 kiwi Instagramより)
カミシバラー ミキ さんによる紙芝居

それにしても、こんなにたくさんのイベントを毎月開催するなんて凄すぎる!
正直大変ではないですか?と思わず訊ねてしまいます。しかしそこで返ってきたのは「暮らしの延長線上なので」という言葉でした。佳織さんが講師を務める草木染めや食事の会などは、普段自分が家族と一緒におこなう「暮らしの仕事」をみんなで一緒にやろう、というもの。

あとはいろんな人が関わって、それぞれが得意なことをみんなと分かち合う、というスタイルです。昇さんやスタッフの方と協力しながら、今月も楽しそうなイベントが盛りだくさんに開催されています。

大勢の人が集まるというよりは、顔を突き合わせてゆったりと楽しむ小さなイベントを積み重ねることで、緩やかな繋がりを生み、そこに共鳴する人がまた集まってくる。かといって境界線を引くわけではない、という絶妙なバランスが成り立っている素晴らしい場作りです。kiwiは子どもから大人まで、たくさんの人に囲まれているのが、本当に似合うお店だな、と感じています。(第2話へ続く)

kiwiの猫たちはとても人懐こい

(文 : 本沢 結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。

「ウッドロングエコと人」は、”地域材”と”人”にフォーカルした読み物です

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