2023.02.01

[vol.2]人と自然の可能性発掘基地 BASE 101% -NISHIAWAKURA-

BASE 101% -NISHIAWAKURA- 内観(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

2022年3月、岡山県の山あいの村・西粟倉村に、BASE 101% -NISHIAWAKURA- という複合施設がオープンしました。100%を超えた101%の関係性を目指した「人と自然の可能性発掘基地」には、村の新たな拠点として多くの人が訪れています。

レストラン/カフェの他にセレクト商品の販売やDIY用の木材販売も行い、大きな窓から見える巨大なハウスではいちご摘みを楽しむことができます。

猟師としても活躍する BASE 101% -NISHIAWAKURA- の羽田 知弘(ハダ トモヒロさん

フラッグシップメニューの「10彩1汁膳」は、地元産鹿肉などのジビエや野菜を存分に味わえ、健康的で満足度も高い人気メニュー。今回お話を伺った BASE 101% -NISHIAWAKURA- の羽田さんは自らも猟師の資格を持ち、自身が捕えた鹿の肉などが並ぶこともあるのだとか。

お惣菜10品を食べられる10彩1汁膳
西粟倉森の学校ウェブサイトより)
西粟倉村で酪農を営む白岩さんの牛乳を使用したソフトクリーム
西粟倉森の学校ウェブサイトより)

西粟倉村で酪農を営む白岩さんの牛乳を100%使ったソフトクリームや、目の前のいちごハウスで採れたいちごを使ったメニューなどがある他、販売する木材はもちろん西粟倉産、セレクト商品も地元のクラフト作家さんたちの作品が中心に並び、「村由来」のものが多数販売されています。

広々としたウッドデッキは西粟倉産の木材にウッドロングエコ仕上げ

天井が高く広々とした空間が特徴的な建物は、元木材工場だった場所を減築したもの。使われた木材はもちろん全て西粟倉産です。外には広いウッドデッキが設置され、ウッドロングエコが塗布されています。

独特の色味を醸すウッドロングエコを塗装したウッドデッキは、お客さんにも好評とのこと。

ウッドロングエコは土壌汚染対策法で指定される有害物質の検出がなく、土壌や水質を汚染しません。また、もっとも厳しい検査といわれる「淡水魚毒性試験」でも全く問題がなく、環境問題に配慮している事業所などから支持をうけている商品です。

水域に使用される建築材料の毒性試験(淡水魚同棲試験)の結果、検出無
土壌汚染対策法で指定されている有害物質の検出無

西粟倉森の学校では、以前から工場の周りの施工や移住者向けの家などにもウッドロングエコを使っていただいており、実は長いお付き合いでもあります。

中山間地帯での
「いちご栽培」という選択

BASE 101% -NISHIAWAKURA-のいちごハウス(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

BASE 101% -NISHIAWAKURA-のオープンから遡ること2年、創業10周年を迎えた西粟倉森の学校では、「いちご栽培」という新たなプロジェクトが立ち上がろうとしていました。

日本全国で、大きな製材所はますます巨大化し、小さな製材所はどんどん姿を消す中、西粟倉森の学校のような中規模の企業はどのように生き残るべきなのか。その模索の中で、工務店等のプロを相手に木材を販売するだけでなく、DIY用の板一枚から、名刺入れ、カトラリーの手づくりキットなど、少量多品種で、普通の材木屋さんがなかなか手をつけづらいエンドユーザー向けの商品も多数販売してきました。

西粟倉産杉材の「ユカハリ・ヘリンボーン すぎ」(西粟倉森の学校ウェブサイトより)
蜜ロウワックスで育てる ひのきの名刺入れ ヨコ型」はじめて無垢を使う人でも木の経年や蜜ロウワックスでのお手入れを体験できることを目的とした商品。

そうした試行錯誤を重ねながら、森から切り出された木を加工して販売して、なんとか黒字にはできたとしても、日本の林業が置かれた状況や積み重なる課題の大きさを前に、厳しい現状を打破するのは至難の技です。

木材以外で何か新しいことはできないだろうか。

様々に検討を重ねた結果導き出された答えが「いちご栽培」なのでした。

おが粉と樹皮で育てる
うれしい!たのしい!森のいちご

いちごを育てるおが粉と樹皮(BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

通常いちごを栽培するのには、ヤシの木の繊維などで作られたヤシガラを使うことが多いのだそうですが、西粟倉のいちごは製材の際に出る「おが粉」と「樹皮」を使っているのが特徴です。わざわざ船に乗せて遠くから届けられたヤシガラを使うのではなく、手元にふんだんにある、おが粉と樹皮を使う。まずは土代が安くなるということもあるけれど、森からの恵でいちごを育てる、という関係性の密接さに重きを置きたいという気持ちからだといいます。

BASE 101% -NISHIAWAKURA- で栽培されているいちご
BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

いちごを選んだ理由の一つに「キャッチーさ」があると羽田さんが教えてくれました。


西粟倉にはうなぎもジビエもあるけれど、いろんな人にカジュアルに届けるものではありません。その点、子どもから大人まで好きな人も多いいちごは、「かわいい!食べる!おいしい!」みたいな分かりやすさと届きやすさがあります。家族みんなで、友達同士で、西粟倉にいちごを摘みにいこう!というのは楽しいレジャーの選択肢のひとつとして、取り入れやすいものと言えます。

毎年1月から5月はいちご摘みができる(BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

2022年秋にはハウスの面積を拡大。大きなハウスの中で、1月から5月完熟いちご摘みを体験することができて、紅ほっぺ、章姫など5種類のいちごの食べ比べができるほか、店頭でいちごを購入できたり、いちごを使ったスイーツなどもカフェでいただけます。

「ものを動かす」ことと
「人を動かす」こと

BASE 101% -NISHIAWAKURA- ウッドデッキ:ウッドロングエコ仕上げ
BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

BASE 101% -NISHIAWAKURA- は、車で40〜50分かけて森の中の非日常を味わいにくる人、視察で村を訪れた人、そして地元の人など様々な人が訪れているといいます。木材、いちご、ジビエ、雑貨など西粟倉の魅力を一度に味わえる拠点ができたことは、村にとっても一つの大きな変化であったのではないかと思います。

店内54席+ウッドデッキ16席=計70席の広々とした店内
BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

今までは、森林から切り出した木材を使っていい商品をつくって都市へ送り、西粟倉に興味をもって、応援してもらおうということをずっとやってきたけれど、こちらから「もの」を送り込むことに加えて、西粟倉に人を呼ぶ、ということをもっとやっていきたい。羽田さんはそう話します。

1,400人の村に大量に人を呼び込むということはキャパシティ的にも難しいからこそ、来てくれる人たちとの関係性をより密接にして、小さく積み上げていくようなことがしたい。「関係人口を増やす」というとなんだかありきたりな流行り言葉になってしまうけれど、小さな村だからこその関係性を作り上げていきたいし、そこに可能性を感じているといいます。

BASE 101% -NISHIAWAKURA- 木製サイン看板:西粟倉材にウッドロングエコ仕上げ
BASE 101% -NISHIAWAKURA- Instagramより)

例えば、西粟倉にいちごを摘みに来てくれた人がいて、実はその人は家を建てようとしているとする。その人がBASE 101% -NISHIAWAKURA – で販売している木材をみて無垢材の良さを知って、フローリングを無垢材にしたりする。そうすると今度は家具もスギやヒノキがいいね、とか、西粟倉村に行ったらすごく素敵だったから、毎日食べるお米も西粟倉のものにしようとか。そういう関係性のステップを踏めるようにしたいし、その入り口としてBASE 101% -NISHIAWAKURA- が機能するといいな、と。

「未来の里山」はどういう
在り方をしているだろうか

では西粟倉村はこれからどうなっていくのでしょうか?羽田さんにこれからの展望を伺うと、「未来の里山とはどういう在り方をしているだろうか」。そんなことをいつも考えているのだと教えてもらいました。

都市の暮らしの中では見えづらい、森や自然や生き物同士、そして人間との関わりを、里山では常に感じることができます。それを外から来た人にも分かりやすく可視化できる場所やサービスを提供することで、人々がこの世界の生態系に組み込まれていることを感じ、考え、行動するようになる。

「生きものざわざわ、自然がさがさ、みんな来てくれてハッピー、みたいな感じがいいんですよね」

と話す羽田さん。実際には様々な苦労や重ねてきた努力があるからこそ、力まず、肩の力が抜けた言葉で表現できるのだろうな、と感じた瞬間でした。

人口減少、過疎化、などなど多くの自治体日本のほとんどの自治体が未来で遭遇しうる問題が他の自治体よりも先に来てしまったものだから、先取りして課題と戦っているところ、という西粟倉村。その「先輩」の取り組みを知ろうと、西粟倉村には視察が絶えません。

山からの恵みを循環させてお金も産む。「地域経済」という点でも、さらには「環境」という点でも、先を走り続ける西粟倉村から、私たちが学ぶこと、考えさせられることはこれからもまだまだ増えていきそうです。

(文 : 本沢結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学をに上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。

VOL.1

全国から注目
西粟倉の「総合力」

【ウッドロングエコ×地域材】をコンセプトとした、インタビューBLOG「ウッドロングエコと人」はこちらからご覧ください。

フリーマガジン(無料)を希望される方はお電話にてお問合せください。 0597-27-3361(小川耕太郎∞百合子社)

記事一覧を見る