2023.02.01

[vol.1] 全国から注目 西粟倉村の「総合力」

人の手が入り下草にまで光が射す、西粟倉村の森
現在ではそういった森も珍しくなっている(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

西粟倉村(にしあわくらそん)は、岡山県の北東端、鳥取県と兵庫県の県境に位置する人口約1,400人の村。「平成の大合併」の折にも近隣市町村との合併は選ばず、独立の道を選んだこの小さな村は、過疎高齢化や課題山積みの林業の問題にその最先端の地として独自に取り組み、全国から注目が集まっています。

BASE 101% -NISHIAWAKURA- の羽田 知弘(ハダ トモヒロ)さん

今回は、そんな西粟倉村に2022年に新たに誕生した「人と自然の可能性発掘基地」BASE 101% -NISHIAWAKURA- を運営する羽田知弘さんにお話を伺いました。羽田さんは2015年に西粟倉村に移り住み、材木の営業職などを経て、 BASE 101% -NISHIAWAKURA- の企画から立ち上げに携わった方です。

(BASE 101% -NISHIAWAKURA- については、[vol.2]で詳しく紹介しています)

くくり罠の猟師としての活動や、自宅で鶏や鴨を育てたり、トレイルランを楽しむなど、公私ともに村での生活を満喫している一人です。

百年の森林(もり)構想

百年の森林構想(西粟倉村ウェブサイトより)

西粟倉村が掲げる「百年の森林(もり)構想」。

村の面積の95%が森林という西粟倉村で2008年にスタートしたこのプロジェクトは、行政と民間とが手を組んで、約50年前に森に木を植えた人々の想いを引き継ぎ、50年後に向けて立派な百年の森林に育て上げよう、というもの。

人工林は、人の手が入らなければあっという間に荒れていきます。枝葉を落とさなければ光が入らず、下草が十分に生えないことで土砂災害などのリスクを引き上げてしまうこともあります。そして間伐をしなければ木の成長が遅れ、木材としての価値が下がってしまいます。

山主の高齢化の問題、費用の問題、労力の問題等から、日本の森は全国的にとても厳しい状況にあり、放置される山は各地で大きな問題となっています。

一見ひとつの大きな山であっても、実際にはパッチワークのように細かく持ち主が分かれていることが多く、一括で手を入れられないことも山が放置される要因の一つでもあります。さらに持ち主の後継者がその土地を離れて、管理がしきれなくなった山が外国資本に買われたり、転売が繰り返されることで地権者の把握がますます難しくなったり、山の一部に突然メガソーラーが建設されて周辺の住民とのトラブルが起こるなどという事案も日本中から聞こえてきます。

そこで西粟倉村が行ったのは、山主一人一人に対する説明と説得という、ちょっと気が遠くなってしまうような地道な作業でした。さらには西粟倉の森林を応援してもらう「共有の森ファンド」を立ち上げて小口投資を募って資金を集め、山を村が管理することで、作業道を整備して間伐を行い、木を切り出して商品をつくり、出た利益は山主に還元するという循環を生んでいます。

間伐材を使った西粟倉の看板アイテム
「ユカハリ・タイル」

西粟倉村と二人三脚で森林の保全や地域経済の盛り上げに関わってきたのが、牧大介さんが代表を務める「西粟倉森の学校」そして「エーゼロ」です。「西粟倉森の学校」は主に材木の販売などを手掛け、「エーゼロ」はうなぎの養殖(後述)やジビエの販売、ローカルベンチャーの支援などを行なっています。

ユカハリ・タイル すぎ 無塗装(西粟倉森の学校ウェブサイトより)
ユカハリ・タイル 2015年ウッドデザイン賞最優秀賞を受賞

その「西粟倉森の学校」を代表する、特徴的なアイテムといえば「ユカハリ・タイル」。

「ユカハリ・タイル」は50cm×50cm厚み1.35cm裏地にゴムシートの付いた無垢の木のタイル。自分で手を入れることができない賃貸住宅の家でも、このユカハリ・タイルを並べるだけで無垢材のフローリングが手に入るという優れものです。置くだけでごろごろと寝転がりたくなる本物の木の床の家で暮らせるということで、毎年継続的に売れているのだとか。

派生商品として、簡単にヘリンボーンのフローリングが手に入る「ユカハリ・ヘリンボーン」、貼るだけで壁を無垢材に変えることができる「カベハリ」なども展開するほか、無垢材の家具や、自分で最後の一手間を加えてスプーンや鉛筆などを完成させる「ヒトテマキット」など、工夫を凝らした商品を数々展開しています。普通の材木屋が面倒臭がってやらないことをあえてやる。B to B だけでなく B to C にも力を入れることで、中規模の製材所 / 材木屋としての活路を見出してきたのでした。

奈良の幼稚園にユカハリを収めた事例
(塗装は小川耕太郎∞百合子社の未晒し蜜ロウワックス
西粟倉産のFSC合板(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

積雪地帯でうなぎの養殖を?
西粟倉村の新たな特産品「森のうなぎ」

森のうなぎ 手焼き蒲焼(エーゼロ自然資本事業部オンラインショップより)

豪雪地帯でもある山あいの西粟倉村とはなかなか結びつきそうにない「うなぎ」が、この村の特産品として売られています。その名も「森のうなぎ」。うなぎといえば、静岡県の浜名湖など暖かい地域や海のそばなどで生産されているイメージがあります。その対極にあるように思えるこの地域で、なぜうなぎなのか。

林業の村である西粟倉村では、毎日発生する端材の処理に困っていたといいます。端材なのでサイズや量もバラバラ。一般のお客さんに向けてDIY用アウトレット木材の販売を行ったり、自宅の薪ストーブや薪ボイラー用の燃料としてスタッフが持って帰ったりということはあったものの、それだけで捌き切れるものではありませんでした。

旧影石小学校の体育館はうなぎの養殖場に(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

そこで出てきたのが「うなぎ」というアイディア。

端材をバイオマス燃料として水を温め、廃校となった旧影石小学校の体育館の温水プールでうなぎを養殖。温かい水温を好むうなぎのために、常時25度から30度くらいに水温を保っているのだそうです。

うなぎを通じた里山の資源循環(西粟倉森の学校ウェブサイトより)

養殖場から出た排水はろ過して再び養殖場に戻され、ろ過した有機物質を含む水は、肥料として野菜づくりなどに活用されています。目の前にある限られた資源を余すことなく使おうという取り組みは、ますます意識せざるをえない地球環境への配慮という点でも、注目されるべきものだと言えます。

人口1,400人の村に
魅せられて

「百年の森林(もり)構想」をはじめ、さまざまに注目を浴びるようになった西粟倉村。その取り組みが知られるにつれて全国からの移住者も年々増え、現在では約1,400人程の人口のうち、200人ほどが移住者というから驚きです。村や企業からのサポートもあったこともあり、起業家も多く、50以上のベンチャーが立ち上がっているといいます。

全国で空き家の問題が深刻化するなか、西粟倉村では移住者の増加で住む家が足りなくなり、次々に家が建てられているのだとか。

コロナ禍で都市部から地方地域への移住を考える人が増えたという話はよく聞きますが、この西粟倉村に集まるのは、一層と強い熱意を持った人が多いように思います。

材木を売ること、うなぎを養殖すること、いちごを栽培すること、ミツバチを飼うこと、米をつくること、鹿を狩ること…。それぞれがそれぞれの方法で自然と地域経済の循環を生む。その総合力が西粟倉村の魅力であり、底力になっているのでした。

vol.2では、そんな村の人たちが集まる場所として、相次ぐ視察団が必ず訪れる村の中心として、西粟倉村の新しい顔として機能する施設、BASE 101% -NISHIAWAKURA- についてさらに伺っています。

(文 : 本沢結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学をに上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。

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VOL.2

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