2022.09.22

35MAGAZINE – 北海道への愛を「照れずに、語る」フリーマガジン [35blog-2話]

木彫りの熊や除雪重機など、いかにも北海道らしいものが並ぶおしゃれな表紙。これが無料配布されていると聞くと、いいんですか?と思わず尋ねてしまいそうなハイクオリティなフリーマガジン、それが35MAGAZINE

三五工務店のグループ会社である 35designが手がける35designの自己紹介的な冊子で、キャッチコピーは「照れずに、愛を語ろうと思う」。代表である田中裕基さんが自ら編集長を務めます。

北海道のヒト・モノ・コトから35個を選び抜き、それぞれについて思う存分「好き」を語り、北海道への「偏った愛」が溢れた内容。札幌を中心とした北海道内や、一部東京や神奈川でも配布されています。

 北海道をよく知らずとも
面白く、よく知っていれば
さらに面白い

毎号一つテーマを決め、それについて掘り下げる内容で、例えば最新号のvol.3の特集は「雪」。

大量の雪が降る北海道。雪かきはもちろん大変だし交通にも影響する。2022年の冬にも記録的な大雪が降り、生活の混乱をもたらしました。

そんな雪との付き合いは、時にはうんざりするけれど、どうせ降るのならば楽しんでやろう!というのが今号のテーマです。

氷点下のサウナ(35MAGAZINE ウェブサイトより)

氷点下でサウナに入り、雪の中にダイブ!衝撃的な画ですが、これこそ雪国ならではのワイルドな楽しみ方。焚き火で体を温めて、寒さの中で食べる野外料理も格別なのだそうです。

35MAGAZINE ウェブサイトより)

それに続く重機コレクションも、雪の降らない尾鷲に住むものとしては、みたことのないものばかりでとても楽しい。こんなにカラフルで種類もたくさんあるだなんて知りませんでした。

35MAGAZINE ウェブサイトより)

それから、北海道の「ローカルヒーロー」にフォーカスした「35 PEOPLE」。綺麗で格好良い写真と、短い文章で的確にその人の魅力を伝えます。

飲食店の店主、映像作家、プロキャンパー、ジュエリーデザイナーなどやっていることはそれぞれで、もちろん道外の人間としては知らない方ばかりではあるものの、つい引き込まれてじっくりと読んでしまいます。こんなに個性的で魅力的な人がたくさんいる北海道は、きっと魅力的な場所に違いありません。

私が個人的に好きなのがこの「愛すべき偏った北海道。」のコーナー。
「こたつを信じていない」「道外の寒さに冷たい」など、道外の人間としては意外且つクスっと笑えるトピックが、きっと道内の方々には「あるある」として共感されるのだろうなということが想像できてとても楽しいです。

他にも、さまざまなコラムや対談、35stock / あめつちのレシピなどコンテンツは盛りだくさん。写真もデザインも美しく、読み終えて再び「無料でいいんですか?」と言いたくなる内容です。

なぜフリーマガジンを
つくるのか
〜地元愛の「再発見」〜

これだけクオリティの高いフリーマガジン。制作にもかなりの時間と労力を費やすはず。そこまでして発行を続ける理由には、北海道の面白いヒト・モノ・コトを発信することで、北海道の素晴らしい面を再編集し、さらに面白くしたいという思いがあるのだといいます。

生まれ育った町の魅力は、実は地元の人たちが一番わかっていないということはよくあります。これを書いている筆者自身も、自分の出身地の魅力は他の人から教えられることも多く、移り住んだ先の尾鷲の魅力についてはこちらが熱弁する、なんて場面をたくさん経験してきました。田中弘基社長も、一度北海道の外で仕事をしたからこそ、よりその「愛」が深まったということも、もしかしたらあるのかもしれないと想像しています。

「何もないところだから」
謙遜もありながらつい口にしてしまうこんな言葉を、全力で否定してかかるのが「35MAGAZINE」なのです。

「工務店」のイメージを格好よく

三五工務店が手がけた一般住宅 (道産材の外壁にウッドロングエコを塗装)

工務店の一般的なイメージとして、「格好良い」が真っ先にくるということはなかなかないでしょう。しかしそのイメージを変えて行く、というのが三五工務店と35designの目標の一つだと言います。

家を建てるというのは、多くの人にとって人生で一番大きな買い物。だからこそ、誰に依頼をするかというのは大変重要な問題です。

三五工務店には営業担当者がいないのだそうです。そこで、自分達を紹介する冊子としてフリーマガジンを作成し、カフェの運営も行う。そうすることで三五工務店を知ってもらう間口を広げ、「この工務店で家を建てたい」と思ってもらえるような要素をいくつも散りばめる。結果として双方のイメージの差異が少なくなり、理想の家づくりに近づけることができるというメリットもあります。

自分たちのやっているものづくりを、誇らしく、楽しく、格好よく発信していく。それが工務店に携わる人の裾野を広げ、工務店で建てたいというお客さんを増やして行くことにもつながる。将来を見据え、三五工務店が大切にしていることの一つなのだそうです。

北海道の森と木と

35MAGAZINEの裏表紙を見ると、

「北海道の木が、好きだ。」

「森と暮らしをつなぐ。」

というコピーが目に入ります。そしてコンテンツには必ず北海道の自然や林業に関するコラムが。北海道の「森」や「木」への思いが感じられます。家を建てる工務店は、「森と人をつなぐ架け橋」なのです。

北海道には日本の森林面積の1/4にあたるという広大な森林が広がります。林業の問題を考えるにあたって、北海道は大変重要な地域。しかし林業の担い手の高齢化は深刻で、危険を伴う仕事には若いなり手がいないのも現状。手を入れなければ死んでいってしまう森がたくさんあります。

だからこそ、道産材を普及させたい。その土地で生まれ育ったものが、その土地に一番合っているはずだから。北海道で家を建てるならば、北海道の木材を使う。それを当たり前にしたい。

三五工務店は北海道の「森」と「木」にこだわります。

切っても切れない
「森」との関わり

カラマツの森(三五工務店ウェブサイトより)

木が芽吹いてから材木として切り出されるには、何十年もの時間が必要です。祖父母の代に植えられた木がものになるのは孫の世代になってから。とても長いスパンで考えなければなりません。

「森と人をつなぐ架け橋」になるのが工務店の仕事。その使命感から、三五工務店は森へと足を運びます。コックの経験がある現社長からすれば、「生産地の畑を見にいく感覚」なのだそうですが、そんな建築関係者は珍しいのだといいます。

森に手を入れることが如何に大切かをわかっているからこそ、今では間伐のお手伝いをしたり、森づくり活動やレクリエーションなどの事業への協賛や寄付などを行い、さまざまなかたちでの森への貢献をおこなっています。

そうして大切に育てられた木も、今も半分は道外に出ていってしまうのが現状。三五工務店はそうした状況を変えようと、道産材の良さを伝え、実際の施工に使う道産材の比率も少しずつ上げようと取り組んでいます。

新しい試みとして、木材を製造するところから自分たちで手掛けられるようにと、新たに山の購入を検討しているのだとか。自分たちで山を維持・管理して原木を育て、その木を使って家を建てる。そういった「川上」の部分まで自分たちが踏み込んでいかなければ、この難しい局面を打破することはできない。そういった使命感を持っての目標です。

家を買う側からしても、自分達の住む家の木がどんなところで育ち、今目の前にあるのか、工務店を通して知ることは家への愛着はもちろん、その先の森や自然へと思いが繋がっていくことにもなりそうです。


KIMUN KAMUY WATER (三五工務店ウェブサイトより)

これは三五工務店がつくった北海道のナチュラルミネラルウォーター「KIMUN KAMUY WATER」。

「KIMUN KAMUY」というのはアイヌ語で「山の神」の意。「名水百選」にも選ばれた、羊蹄山の麓から湧き出る「京極のふきだし湧き水」で、ミネラルを豊富に含んだ天然水を使っています。

売上の一部は北海道の森の環境保全活動に使われるそうで、ここにも森への感謝、北海道への思いを強く感じとれます。



木の外壁には、
土や水を汚さない
「ウッドロングエコ」を

もちろん、環境への配慮も怠りません。三五工務店の手掛ける住宅では、外壁に木を使う場合には「ウッドロングエコ」を塗装しています。ウッドロングエコは、「土壌汚染対策法」で指定されている土壌や水質を汚染する有害化学物質29項目について、すべて不検出。さらに安全性の検査の中で最も厳しいといわれる「淡水魚毒性試験」でも安全性が確認されいて、環境問題に関心がある方に選ばれています。

木材、食、水、森、といった北海道の恵みが「家づくり」を通して循環する。

住まいを通してサスティナブルなスタイルを提案する、3代目ならではの独自の事業展開から目が離せません。(続く)

(文 : 本澤結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年にオープンした古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫を運営している。


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