2021.10.12

遺品整理に関わる社会問題を、UPサイクルで解決!

過疎地で開催された、
県内最大級のマルシェ。

尾鷲商工会議所青年部の地域イベントとしてスタートを切った「おわせマルシェ」は、年に一度、 尾鷲の若手が集い運営する、県内でも最大級のマルシェです。

第1回 2017年 約2500人(来場者)

第2回 2018年 約5000人(来場者)

第3回 2019年 約8000人(来場者)

尾鷲市は 過去50年間ずっと人口減少が続いており、 高齢化率は40%を超えています。 地域によっては高齢化率が70~90%を超える町もあります。そんな状況の中、開催された「おわせマルシェ」。中心となったのは尾鷲商工会議所青年部の4人。イベントを運営するにあたり大切にした考えは3つあったといいます。

過去にやってきた既存のやり方は導入しない。

②トップダウン型の組織はつくらず、ボトムアップ型チームをつくる。

マルシェを開催することで、ヒトとヒトがつながる事、モノとヒトがつながること

これだけの大きなマルシェでありながら、補助金などの支援も一切もらわずに運営してきたと聞き、正直言って驚きました。第2回以降のおわせマルシェは、おわせマルシェ実行委員会を立ち上げ、尾鷲商工会議所青年部という枠をはずしてスタッフを募集し、沢山の人があつまったそうです。マルシェに参加する人だけでなく、運営側もヒトとヒトがつながる場となりました。

▲第三回 おわせマルシェ運営スタッフ
画像:おわせマルシェFBより / 撮影:© Suteki Factory       

年に一度から、常設開催に切り替える。

県内最大級マルシェとして有名になった一方で、駐車場問題をはじめ様々なキャパシティの問題があっため、思い切って年に一度の開催から常設開催に切り替えることに。運営に関しても、イベントの代表を務めた小倉裕司さんが「おわせマルシェ」を新規事業として立ち上げました。

アラフィフの私には異星人にみえる20代の小倉君には、この場をつくるにあたりどんな背景があったのかが気になっていました。(小川百合子)

以下、おわせマルシェ代表取締役 小倉裕司さんのインタビューを記載します。

地域の困り事を解決する、新事業を立ち上げる。


親から引き継いだ浄化槽事業。
到達すべき目標は「この仕事がなくなること」

20代で親からの事業を引き継いだ ㈱南清社 代表取締役小倉裕司さん
おわせマルシェでも立ち上げ当初より代表を務める。

私、小倉裕司は、 2014年23歳の時に尾鷲へUターンして家業に就き、3年後に父が他界したこともあり、26歳で社長業を引き継ぎました。自分が社長になりまず考えたことは、浄化槽事業が到達すべきゴールは「浄化槽の仕事がなくなる事」だということです。

浄化槽の仕事は、下水が詰まった、匂いがするなどの様々なお客様の困り事を解決することでしたが、浄化槽の技術が進歩したお陰で、定期検査の際に、昔のような「困り事」が減少しています。また、人口が急速に減少する尾鷲市では、この先浄化槽が増えることはありません。新しい事業をはじめる必要性を感じていました。

ウンコ瓶を片手にトイレの未来を語る、ビルゲイツのスピーチに、背中を押される。

(画像)GIZMODOより

更に背中を押したのは、マイクロソフトの創業者ビルゲイツ氏が運営する慈善基金団体 ビル&リンダゲイツ財団が約2億ドルを投じて挑戦している「トイレ革命」でした。開発途上国の農村地域などでは、安全で衛生的なトイレがないため、屋外で排泄している人がたくさんいます。その結果水源が汚染され、下痢性疾患により毎日約800人の子どもが命を落としています。

ビルゲイツ氏は開発途上国の死者数を減らすために、約2億ドル(約210億円)の資金を投じて新しいタイプの汚水処理装置を開発しています。貧困問題が大きな問題となっている国では、既存の汚染処理装置を投入しても継続することができません。近い未来に、自己完結型の浄化槽技術が安価で商品化できれば、従来の浄化槽の仕事はなくなるでしょう。

幸い、親がつくりあげた事業のお陰で、私たちにはたくさんのお客様がいます。ならば、浄化槽の困りごとだけでなく、幅広く「お客様の困りごとを解決する仕事」をつくろうと決意しました。

20代で遺品整理を経験。 遺品整理士と古物商の資格をとり、遺品整理事業部を立ち上げる。

では、具体的に「お客様の困り事」とはなんだろうか?と考えた時に、20代で経験した父親の遺品整理のことを思い出しました。引き継いだ浄化槽事業の社長業務を行いながらの遺品整理は本当に大変で、これは第三者が入らなければとても整理などできないと実感したのです。

当時、空き家サポートに取り組むNPO団体が運営する「シェアスペース土井見世」の一角をオフィスとして借りていました 。ここは、市の職員や地域おこし協力隊が行き交う場でもあったことから、空き家問題は行政が立ち入れないケースが多いことを耳にし、複雑な社会課題に気づきました。

遺品整理や空き家の片付けはトラブルも多いため、プロとしてかかわれるように「遺品整理士」の資格を取得。遺品の取り扱いの知識を深め、遺品整理事業部「クロッシングサービス」をスタートさせました。遺品整理のほか、この地域の遺品整理のエリアマネージャーとして他の遺品整理士の指導にもあたっています。

孤立する高齢者。様々な問題を抱えたケースも柔軟に対応。

海と山が接するリアス式海岸の地形に家が連なる尾鷲市輪内地区は、車がつけられない場所が多く、空き家の片付けが非常に困難な場所。新事業部クロッシングサービスでは、様々な問題を抱えた場所でも柔軟に対応。

遺品整理はモノを整理するだけではなく、遺族の精神的なサポートも必要となります。実際にはシルバー人材センターに頼んだ方がコスト的には安いですが、プロにしかできない仕事もあります。

一例をあげると、ご高齢になると日常生活で出来いことが増えるため、ゴミ屋敷寸前の状態で生活されている方もいらっしゃいます。この状態では第三者は介入できませんが、ご高齢者様が施設に入られることを機に、ご親族からお部屋の片づけや生前整理としてご依頼を受けることもあります。お写真などが見つかった場合は年代別にわけて保管したり、ご本人や親族にとって大切だと思われるものは親族にご連絡をし、保管しています。また、衛生的に問題がある場合は消毒作業もさせて頂いています。


問題は、費用です。

粗大ゴミと再利用できるゴミをわけ、アップサイクル事業部を立ち上げる。

父親の遺品整理をした経験から、遺品整理はかなりの費用と時間がかかることを知りました。費用問題をどのように解決したらよいのかを考えながら、遺品整理士の資格と同時に古物商の資格もとりました。

購入できる家具などがあった場合は引き取り、依頼者さんの金銭的な負担を下げました。同時にアップサイクルの家具工房及び尾鷲ヒノキのお皿などをつくるノスタルジックニューワールドという事業部を立ち上げ、その工房では修繕や家具や古道具のリメイク、お皿などを制作する業務を行っています。

「どのようにRethink すれば、歌舞くのか」 が大事。

アンティーク木製家具と尾鷲ヒノキの雑貨がならぶ、常設おわせマルシェ。

画像:三重県庁 尾鷲港に関する情報  https://www.pref.mie.lg.jp/KOWAN/HP/61117025199.htm

遺品整理をして興味深かかったのは、気候風土によりお金の使い方や価値観が異なるという点です。 尾鷲は、海と山に囲まれ平地がすくないせいか、農山村と比べると家はコンパクトです。また、お金を貯めるよりも使って廻すという考え方が根付いています。海は恵を与えてくれる一方で大荒れすることも肌身にしみており、 「津波によって家が流されてもしょうがない。ならば、良い家具を購入し家族との時間を楽しもう」という考えがあるように思いました。

また、漁港が多いこともあり、海外からのレアなお土産品が多いというのも特徴だと思います。例えば、動物のはく製や年代物の洋酒などがかなり高価なものもありました。古物商の仕事に関しては「見立て」を大切にしています。 おわせマルシェの場合は、無料リサイクルのような「もったいない」という観点ではなく、「どのようにリシンクすれば歌舞くのか」をコンセプトにしています。

歌舞くとは  「常識外れ」や「異様な風体」を表すようになった。
さらに転じて、風体や行動が華美であることや、色めいた振る舞いなどをさす。

まずは、「これは和ダンスだ」といった、モノに付随しているカテゴリーを全部取っ払って、あえて一度思考停止をし、純粋にカタチだけを観察します。 例えばおわせマルシェの受付カウンターは、和ダンスにキャスターをつけてリメイクしています。

スタッフルルームの出入り口はちょっと低いドアを設置 。
茶室空間にある にじり口 や忍者屋敷の隠しドアにもみえるところがいい!
遺品整理ででてきたアンティーク小物や古道具は修繕や手入れ後、雑貨として販売。
割れた木の壺は照明器具にアップサイクルされた。
子育て世代が子連れで楽しめるよう、尾鷲ひのきでつくられたキッズスペース(2022年1月頃オープン予定)  

小川耕太郎∞百合子社の木もちeデッキもおわせマルシェさんがアップサイクルすると、、



例えば、おわせマルシェにはこの地域の手作り雑貨や食品加工品の販売ブースがあるのですが、そこでは小川耕太郎∞百合子社の木もちeデッキ(B級品)をつかって制作した什器を使用しています。木もちeデッキはcafeスペースの壁の一角や、テーブル天板、床材としても利用しています。

屋外で使うには赤身がすくない杉の木もちeデッキで各事業者の什器を制作
木もちeデッキ材(B級品)をつかってつくったヘリンボーン張りの壁
木もちeデッキ材(B級品)をつかってつくった、店内のcafeスペースのテーブル。テーブルの脚は遺品整理事業でひきとったものを再利用。
小川耕太郎∞百合子社のウッドデッキ用材「木もちeデッキ」公式サイトはこちらから。※B級品に関するご質問はお電話(0597-27-3361)にてお問い合わせください。

複雑化した社会問題には
ボトムアップ型の組織で
仕事をクリエイト。

ヒトとヒトやモノとヒトをつなげるには、従来のやり方であるトップダウンではうまくいきません。指導者はついつい「こうやったら上手くいくよ」と伝えがちですが、一緒に考えさるということが大事です。かといって「全部任せるから、好きにやりなさい」では動けない。

ボトムアップ型のチームは、フィーリングが大切。あえて形式的な語源化をしなくても「内発的動機づけ(好き・楽しい・おもしろい・ワクワクする・よりよくなりたい・うまくなりたい)」がなされる状況をつくりあげれば、個々が勝手に情報を収集します。

私は、あえて「多様性」など口にしたくないです。1人1人が違うのは当たり前というベースに立っています。指導者が上から指示をするのではなく、まだ、キチンとした計画がなくても口に出すことで色々なヒトと繋がるからです。そんな場の空気感が育てば、ふんわりしたアイディアでも、対話を重ねて行動し、試行錯誤の末にカタチをつくっていくことができます。

元々、前例がないことに取り組んでいるので答えはありません。しかし、難しいといわれる複雑な社会課題も、仲間とならRethinkでき、解決につながっていくと信じています。

蜜ロウワックスで店舗のDIY:おわせマルシェ vol.1

声を上げることができない複雑な社会問題を、仕事としてクリエイトする。

偶然にも、小倉君が遺品整理事業部クロッシングサービスを立ち上げた第一回目の客が私(小川百合子)でした。クロッシングサービスに依頼するまでは、約4年もの間、連休はほぼ家の片付けに充てていたほど、遺品整理や片付けに追われていました。疲弊していた頃に、プロに入ってもらい、みるみる内に、綺麗になるのを目の当たりにすることで、自身の心の中でも過去に区切りをつけることができました。勢いあまり、今度は思い切って元製材工場の片付けを見切り発車で一人ではじめましたが、最終的にはクロッシングサービスに依頼することになりました。誰でも後始末は嫌なものですが、自己の体験を通し「あっ!これは個人の問題ではなく、社会の問題なんだ!」と気づいた時は、目から鱗でした。私個人の経験から思いうかべる複雑な社会問題とは、


・子どもが近くに住んでいない

・男性も女性も働く現代では、親の家を片付ける時間やリソースがない

・嫁の立場では、どれを保存し捨てていいのか区別がつかない

・晩婚や高齢出産が増え、子育てと親の世話が重なり体力的にも難しい

・少子高齢化社会の地方では、若い世代が少ないため仕事を休みずらい


非常に声を上げづらい問題が複雑に絡んでおり、経験した人にしかわからないこともあると思います。


片付けや遺品整理ででてきたゴミが、手入れをされ、おわせマルシェで生まれ変わった姿をみて、感慨深いものがありました。遺品整理などの難しい社会課題の解決を仕事にし、常設マルシェという新たな「場」をつくりあげた彼らのセンスと度胸に圧倒されました。彼らの歌舞く姿をみて新しい時代がきたと思う今日この頃です。(文・インタビュー 小川耕太郎∞百合子社 小川百合子)

小川百合子(おがわ・ゆりこ)

小川耕太郎∞百合子社 取締役。1998年、山一證券が倒産した年に、夫婦で会社を起業。地域の生物資源と産業(技)と自然が循環できることをコンセプトとした持続可能な商品づくりをし第一弾が「未晒し蜜ロウワックス」。主な仕事は持続可能な商品の一般化のためのPRを担当(小さな会社なので何でも屋ですが、、、)

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