2023.12.31

第四話 暮らしの手に宿った創造力

三重へUターンし、菰野町に工房を構える。

長野の田舎暮らしで家族をもった野田さんは、両親の老後のことを考え、三重へUターンをした。

野田さんのお子さんが幼稚園に入園する年頃だったこともあり、Uターンするならば、三重県内で自然育児をとりいれている幼児教育がある土地に一家で住みたいと考えたそうだ。三重県菰野町でシュタイナー教育をしている幼稚園があることを知り、菰野町に、生活と「げんげのはらっぱ」の工房の拠点を構えた。この大きな敷地に一棟ずつ小屋を建てていったそうだ。敷地の真ん中にはヤギや鶏を放し飼いするスペースがある。

働く手は「つくる知恵」と「暮らす力」を憶える

野田さんは、ここでの暮らしの中で「つくる知恵」と「暮らす力」を自らの手で習得していき、創作活動をしているようにみえる。「憶える」は「心」から転じた「りっしんべん」をもつため、感情や思考により深くかかわる部分に刻みつけるという意味があるのだと思う 。暮らしの中で働く野田さんの手は、色々なことを憶えたのだろう。

生命の循環の中でトイレをつくる

この大きな敷地に一番最初に設置したのは、コンテナハウスだ。まずはレンタルしたコンテナハウスに暮らしながら、徐々に小屋を建てていったそうだ。最初に建てた小屋は「トイレ小屋」だ。コンポストトイレのぼかしには、木工製作ででたおが粉も利用するという。小屋の窓の形がウンコマークというのもクスっと笑える。排泄物小屋でもあるトイレは、生命の循環の中で巡るようにつくっている。

製作:げんげのはらっぱ コンポストトイレ  木部塗装:ウッドロングエコ / トイレの中にはいると鹿角のフックがあった。

家族が過ごす主屋と風呂をつくる

次に建てたのは、薪やソーラーパネルでお湯を沸かせる風呂小屋だ。ドラム缶で沸かしたお湯を風呂へ移して入るのだという。

製作:げんげのはらっぱ 塗装:ウッドロングエコ

生活道具をつくること

手作り生活をする野田さんは、様々な生活道具の製作も依頼される。例えば、糸をつむぐ 道具や、靴下を補正する道具などを製作した。野田さんの田舎暮らしの経験値が高いため、生活道具にも一工夫があり使いやすそうだ。


糸をつむぐ道具

糸をつむぐ道具は分解ができ、つむぐ工程で部材を抜けば、一瞬でつむぎ糸玉ができるという優れものだ。依頼主は、羊を飼い、毛刈りをし、そしてそこから糸をつむいで織り編む工房からだ。

画像元:げんげのはらっぱ Facebook /ターキッシュスピンドルというつむぎ道具 製作:げんげのはらっぱ


ダーニング道具
ダーニングは、衣服の穴や布が薄くなった箇所を針と糸で修繕するヨーロッパの伝統的なお繕い方法だが、このダーニング道具は 靴下にできた穴を補正する時につかうもの。キノコ型の愛らしい形状により針仕事がしやすくなる。

画像元:げんげのはらっぱ Facebook / 靴下の穴補正の道具「ダーニングマッシュルーム」  製作:げんげのはらっぱ 

火起こし器

菰野町について学ぶ「こもガク塾」では、火起こし体験の道具も製作したという。「火を起こす」という原始体験をした子ども達は「なぜ、摩擦により熱が発生するのか」など多くの疑問をもち、学びへ繋がった。

画像元:げんげのはらっぱ Facebook  / 火起こし器 製作:げんげのはらっぱ 

醤油搾り器

醤油搾りのための道具は、どんな場所でもアジャスターを用いて平行がとれるような設計になっている。出張講座ではどんな場所で醤油を搾るのかわからないからだ。

画像元:げんげのはらっぱ 写真上:醤油搾り機  製作:げんげのはらっぱ

リクライニングができる三人掛けチェアー

次は、野田さんらしい発想の、リクライニングができる三人掛けチェアー。小屋暮らしのコツは、狭いスペースでいかに工夫するかだという。

画像元:げんげのはらっぱ / 制作製作・写真:げんげのはらっぱ


小鳥たちが動く窓
最後は、愛らしい「窓」 だ。窓を開ける度に、木製の小鳥たちが動くというのが、野田さんらしい。

画像元:げんげのはらっぱ   製作:げんげのはらっぱ

助け合って暮らすことを学ぶ


自身の子どもも自然育児で育てた野田さんは、地域の子育てコミュニティ からも人気がある。野田さんの工房のすぐ近くにある「森の風こども園」の保護者から、「こども園でおひさま醤油づくりをしてほしい」との要望があり、それが縁でこども園の遊具製作もしている。

昨年依頼された三角トンネルのような木製遊具の製作中では、園児たちは製作途中の木製遊具に登るという遊びをはじめた。

画像元:げんげのはらっぱ / 菰野町の木材にウッドロングエコを塗装

その姿をみて園長先生と話し合い、違う形に変更したそうだ。

自由で豊かな想像力子どもにとっては、自身の頭をフルにつかい、遊び方を発見することこそが遊びなのだ。その想像力は、園児達にとって、遊びたくなるような素材感が重要だ。

よくみると、木製遊具の三角形の頂点は、竹を割ったもので木口がカバーされている。一般には板金をつかうことが多い場所が、半分に割った竹は子どもが座っても痛くない。この発想もげんげのはらっぱの小屋づくりが活かされている。野田さんのつくった小屋は、竹を割ったものを雨樋にしていて、それがヒントになったのではないかと思う。近くにあるものでつくるという考え方からできた遊具だと思う。

遊具:菰野町の木材にウッドロングエコを塗布

作業途中の遊具をみつけ子ども達が遊んでいる姿をみて、構想を練り直したというのもいかにも野田さんらしい。

このこども園が大切にしているのは「いのちが廻る暮らし 」だという。こども園では、村人から畑を借り、田んぼを借り、山を借り、子どもも保護者も、共に耕し、種を撒き、収穫して、命をいただく暮らしの中で、子どもと大人が共に成長していく。土から離れない自然に近い暮らしは、お互いに助け合わないと暮らしが成り立たないからだ。

助け合う関係性の中で、一人一人が何らかの役割を見つけていくという、ステキなこども園だ。

小屋を建てるという事

小屋をこよなく愛す小屋大工「げんげのはらっぱ」の野田さんがつくる小屋は、とにかく楽しい。一見、ツリーハウスのようにみえるこの小屋は、なんと鶏小屋だ。鶏が卵を産む場所は上の方にあり、木に登って産み立ての卵をとるという。

野田 桜の枝のうねる線を活かして、ツリーハウスみたいに地上から浮いている感じにしたのが、上にある産卵部屋です。依頼主はいなべ市の山奥にある「MY HOUSE 山の麓の雑貨と喫茶」というカフェや、「鈴原山肉店」というジビエの販売をされている方です。

野田さんのつくる小屋の材料は、基本的には、端材や、近くの森や山の木を使用し、木部のにはウッドロングエコを塗っている。

写真:屋外につかう木材防護保持剤ウッドロングエコ 土壌汚染や環境汚染をしない安全な防護保持剤

画像元:げんげのはらっぱ / 「MyHOUSE 山の麓の雑貨と喫茶」内にある鶏小屋。木部にはウッドロングエコを塗装

BLOG2話で紹介した「絵本とこども道具kiwi」では、店主の夫 田端昇さんがコミュニティビルドという方法で小屋を建てた。店主の描いたイメージを基に、野田さんはイメージスケッチを描き、図面をひき、模型を起こし、構造材の刻みを行った。

写真:絵本とこども道具kiwi Instagramより 外壁塗装:ウッドロングエコ&鉄媒染液

写真:げんげのはらっぱInstagramより 「物置小屋」 外壁塗装:ウッドロングエコ

小屋=木材と思いがちだが、竹の葉に覆われた原始的小屋製作に携わってこともあるとか。下の写真は、島根県立石見美術館で開催された「コズミックワンダー」と「工藝ぱんくす舎」による企画展「ノノ かみと布の原郷展」で展示された「お水え」儀式の舞台だ。野田さんは製作メンバーとして参加している。10日ほど島根の山に籠り、現地の雑木や竹を伐り出し、釘やビスは使用せずに、竹の葉におおわれた原始的な小屋をつくったそうだ。

画像元:げんげのはらっぱ  島根県立石見美術館で開催「コズミックワンダー」と「工藝ぱんくす舎」による企画展「ノノ かみと布の原郷展」で展示された「お水え」儀式の舞台

最後にご紹介するのは、窓の開け閉めにより、温度を調整できる発酵小屋だ。微生物が活動しやすいようポリカーボネートで屋根や窓をつくり日差しをとりいれたそうだ。

外壁塗装:ウッドロングエコ 写真:げんげのはらっぱInstagramより

小さな家で豊かに暮らす


野田 小屋の魅力は、小さいからこそ色々な工夫をして暮らせるところです。土地さえあれば、ライフスタイルに応じて小屋を建て増やすこともできます。

確かに小さな家と土地があれば、本当に必要なものを選択し、工夫しながら生きるようになり、自然にものが少なくなる。消費エネルギーや掃除も最小限ですみ合理的だ。

野田 その気があればセルフビルドもできますし、不安な人には、DIYサポーターとして手伝わせていただく仕事も受けています。小屋なら、一度自分で建ててみて、例え失敗しても次に繋がるし、小屋を建てる経験をすることで、修繕のコツもわかってきます。

画像元:photoACより 野田さんが影響を受けたテレビドラマ『北の国から』では、主人公の五郎さんが自分で家を建てる場面がある。 この写真は、家事で燃えてしまった一番目のログハウスの家のあとに、自分で修理して農家の廃屋に住む場面にでてきた小屋。

小さな小屋に住むことにより、経済的にも、時間的にも身軽になるとは思うが、野田さんはそういう物理的な尺度で話されているのではないと思う。多分、野田さんは、小さな小屋づくりに参加することにより、実体験から得た生きる知恵(素材との向き合い方、地形の把握、人と協力してなにかを作り上げることとか、段取りの重要性など)のようなものを大切にしているように思う。

画像元:絵本とこども道具kiwi Instagram

それは、小屋づくりだけでなく、手作りの暮らしも同様だ 。例えば米をつくる、おひさま醤油をつくる他、一度でも自分の手でつくる体験をすればいろいろな事が見えるようになる。そして手作り暮らしは、いろいろな人の手が必用になってくるので、お互いに助け合う「結の精神」が大切だということに気がつく機会が沢山ある。

『げんげのはらっぱ』に集まる人をみていると、とても楽しそうだ。けして義務感からではなく、自発的に「結の精神」ができているように見える。そういう場に居れば、自然とアイディアがむくむくと湧きだし、互いにモチベーションがあがった状態なので対話が盛んに交わされる。そういう場には必ずといっていいほど創造力が宿っている。

「手作り生活  おすそ分け工房『げんげのはらっぱ』」とは、自然とつながる暮らし道具や小屋製作だけでなく、ものづくりを通して、人と人がつながる場を創造することなんじゃないかと思った。(完)

インタビュー 野田哲生(のだ・てつお)

1968年、三重県伊勢市生まれ。法政大学文学部地理学科卒業後、岐阜県立高山高等技能専門校木工工芸科にて家具製作を学ぶ。後に長野で田舎暮らしをはじめながら、長野県伊那技術専門校建築科にて家の建築を学ぶ、2008年より菰野町にて「手作り生活 おすそわけ工房 げんげのはらっぱ」を構える。

文・取材・一部写真 小川百合子
小川耕太郎∞百合子社 代表取締役。 主な仕事は持続可能な商品の一般化のためのPR。 地域の生物資源と産業と自然が循環できることをコンセプトとした持続可能な商品づくりを目指す。

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