2021.08.25

香りの力 VOL.2 〜健康や環境を害する香り〜

「香りの力 VOL.1 〜香りで気分も整えるアロマ掃除」 はこちらからお読み下さい。

©️橘ちひろ

「香害」を知っていますか?

アロマのように身体に良い影響を与える香りもたくさんありますが、反対に健康被害を与えてしまうものも多く存在します。

「香害」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ここ数年で日本でも問題として取り上げられ始めた、香りに含まれる化学物質が頭痛やめまいや吐き気、思考力の低下などの症状を引き起こすことを指します。

私たちの身の回りには、香り付きの柔軟剤や合成洗剤、消臭剤、制汗剤など人工的につくられた合成香料が含まれた製品が溢れています。こういった合成香料が化学物質過敏症を引き起こし、人によっては生活に支障が出るほどの症状が出てしまいます。

約8割が香害被害を実感

NPO 法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 「STOP ! 香害
香りに苦しんでいる人がいます
」パンフレットより抜粋

「香害をなくす連絡会」が2020年末から2021年3月頃に行ったアンケートによると、約8割の人が香りつき製品のニオイによる体調不良を経験していることが分かりました。さらにそのうちの約2割の人が香害が理由で学校や職場に行けなくなったという経験があると答えています。

NPO 法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 「STOP ! 香害
香りに苦しんでいる人がいます
」パンフレットより抜粋

原因の1位にあげられるのが柔軟剤、そして香りつき合成洗剤、香水と続きます。2000年代から海外製の香り付き柔軟剤が流行しはじめ、この頃から香害の被害を訴える相談が増え始めたといいます。柔軟剤などに使用される香料のほとんどは石油由来の化学物質。これらの香料はホルモン作用を阻害する内分泌かく乱作用をもったり、アレルギーを引き起こしやすかったり、発がん性、神経毒性が指摘されているものもあります。

香りをプラスチックで包むマイクロカプセル技術

さらにマイクロカプセル技術によって、より長く、より強く香りが持続するようになりました。これは香りや消臭成分をカプセルで包み、紫外線や熱、摩擦など 外的な刺激を受けるとカプセルの膜が破れて中身が放出さ れる仕組みです。カプセルの膜は一般的にプラスチックでできていることが多く、柔軟剤の場合、 最近ではキャップ一杯にマイクロカプセルが数千万~1億個も 入っている製品もみられるといいます。

これは洗濯の過程で下水として8割が流出すると言われており、いわゆるマイクロプラスチックとして河川や海の汚染につながります。また大変小さなプラスチックなので、直接吸い込んで肺の奥まで届いてしまうことも懸念されています。

香害をもっと知ってほしい

シャボン玉石けん/意見広告ビジュアル
シャボン玉せっけん / 意見広告ビジュアル

まだまだ認知度の低い香害ですが、深刻な被害を受けている人も増えてきており、特に子どもへの影響が心配されています。ニオイの強い柔軟剤で洗濯をした給食着が原因で給食が食べられなくなったり、他の生徒の衣服のニオイがきついために一人隔離されて授業を受けたり、学校へ行けなくなる子どももいます。


「もっと香害を知ってほしい」として、無添加にこだわって洗剤等の製品をつくっている「シャボン玉石けん」が2018年に出した香害に関する広告は朝日広告賞部門賞(薬品・化粧品・トイレタリー部門)を受賞しました。

ニオイへの感受性は人によってかなりの差があることがわかっており、わずかなニオイでも日常生活が送れなくなってしまうほど甚大な影響を受けてしまう人もいます。しかし例えば香りの強い柔軟剤を使った服を毎日着ていると、着ている本人はニオイに慣れてしまい、なかなか気が付くことができません。他人に対して「ニオイがきつい」というのは身近な人でも言い出しにくく、香害被害の訴えにくさも健康被害を受けている人たちを苦しめています。

まずは香害という公害が存在するということを広く知ってもらい、自分が出しているニオイが人を苦しめているかもしれない、という視点が必要です。その点でシャボン玉石けんの広告は画期的だったと言えそうです。

海外の香害対策

欧米を中心に香料に対する規制や自粛の呼びかけは少しずつ進んでおり、例えばデトロイト市では2010年に市職員に香料の使用を禁止。翌2011年にはオレゴン州ポートランド市でも市職員に香料使用の自粛を呼びかけており、この動きは全米に広がっています。またカナダでも「職場での香料不使用」を宣言する市が出るなど動きが活発化しています。

EUでは規制もはじまり、日本で多く使用されている香料も含め、アレルギーを引き起こす原因物質として域内での販売禁止や使用禁止に踏み切っています。

日本国内の動き

NPO 法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 「STOP ! 香害
香りに苦しんでいる人がいます
」パンフレットより抜粋

日本国内ではどうかというと、自治体を中心に香料自粛を啓発するポスターの作成やウェブサイトでの周知などが少しずつ進んでいます。欧米諸国に比べると遅れをとっているものの、ここ数年で国会内でも香害について取り上げられるようになってきました。香害をはじめ、化学物質過敏症は、花粉症のように身体に取り込む量がある一定を超えると発症するもので、誰しもが苦しむ可能性を持っています。花粉症のような国民病になる前に、一刻も早い対策が待たれる状況です。

知らぬ間に誰かを苦しめてしまう前に

自分にとっての「いい香り」が、誰かにとっての「危険な化学物質」である可能性。健康被害を訴える人の中には、人工香料を「毒ガスのよう」とたとえる人もいます。「香害」という言葉は比較的新しく出てきた言葉なので、まだ認知度が低いということが課題です。まずは知るところから、そして自分の身の回りの「ニオイ」について再点検をしてみてはどうでしょうか。

香りと上手に付き合おう

香害について知ると、人工香料との付き合いは慎重になった方が良さそうだなと思うようになりますが、アロマの例のように香りが与えるプラスの効果もたくさんあります。自分の健やかな生活とともに、周囲の人たちへの影響を考えながら、上手に香りと付き合っていきたいですね。

(文 : 本澤結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2017年に尾鷲市に移住。2018年に古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫をオープンした。

記事一覧を見る