2011.07.02

2011年7月2日付 河北新聞

東日本大震災で津波被害を受けた宮城県沿岸部の自治体では、将来の津波のリスクを避けるため、地域住民が次々に集団移転に名乗りを上げている。だが、現在の国の集団移転を促進する事業は被災自治体の財政負担が大きいことに加え、全住居移転が前提になるなど使い勝手が悪く、実現に動きだせない状況だ。

 

◎国補助かさ上げ要求

 

<9市町で動き>

 沿岸15市町で、住民が集団避難の意思表示をしているのは9市町の36地区。自治体別では女川町12、東松島市7、名取市4、気仙沼市、南三陸町、亘理町が各3、石巻市2、七ケ浜町と岩沼市が各1。仙台、塩釜、多賀城の3市と松島、利府、山元の3町は地区でまとまった動きがない。

 政府の東日本大震災「復興構想会議」は先月25日にまとめた提言で、住宅再建と地域づくりの基本方針として高台などへの移転を明確化した。

 国には、被災地や危険な区域から安全な場所への集団移転を促進する防災集団移転促進事業がある。団地造成や移転経費などの4分の3を国が補助し、残り4分の1を事業主体の市町村が負担する仕組みだ。

 

<合意形成も鍵>

 被災自治体の首長らは、補助のかさ上げなどを国に要望している。宮城県復興まちづくり推進室は「今回の震災のように被害の範囲が広く、集団移転の規模が大きいと、費用が巨額で自治体が事業を行うのは難しい」と説明する。

 財政支援とともに実現の鍵になるのが、住民の合意。同事業は市町村が計画を策定する際、住民の意向の尊重と区域内の全住居移転を定めている。北海道南西沖地震(1993年)や新潟県中越地震(2004年)では、合意形成に時間がかかった。

 

◎宮城の3地区、進まぬ協議/焦る住民、いら立ち隠せず

 

<「何か行動を」>

 「もう100日だ。何か行動を始めなくてはならない時期なんだでば」

 震災から3カ月余りが過ぎた6月18日、宮城県南三陸町の仮設庁舎で、同町歌津の住民互助組織「伊里前契約会」の千葉正海会長(55)は、佐藤仁町長ら町幹部を前に声を荒らげた。

 伊里前地区は大部分が津波で被災した。会は当初から、高台の共有地に集落での移住を検討し、実現へ向け動いている。

 構想では、津波被害を免れた歌津中の周辺にある契約会の所有地20ヘクタールと地権者の協力が得られた12ヘクタールの計32ヘクタールに、住宅地と商業地を整備する。海岸から車で5から10分と近く、漁師が漁業を続けることも可能だ。

 現状では宅地200戸程度分だが、さらに協力者を募り、地区約400世帯が移住できる土地の確保を目指す。県や町の担当者らと協議を重ねるが、一向に具体化しない現状に千葉会長はいら立ちを隠さない。

 町側は「高台移住の考え方に大差はない」と言うが、他の地域も含め町全体で1400億円ともされる整備費のめどが立たない。町は国直轄事業としての実現を思い描くが、国から明確な答えはなく、具体化に向けては慎重にならざるを得ない。佐藤町長は「財政負担を求められたら町はつぶれてしまう」と話す。

 「せっかく住民主導で盛り上がったのに、このままではみんなの心が離れていく」。千葉会長の焦りは募る。

 

<自主的に視察>

 高台移転の早急な計画推進を求めるのは気仙沼市の2地区でも同じだ。

 気仙沼市唐桑町の舞根地区は、舞根湾沿いにあった52世帯のうち、44世帯が津波で流された。残った8世帯を含む29世帯が高台移転を希望する。

 住民は国の防災集団移転促進事業に期待するが、市は移転の必要性は認めつつも、多額の財政負担を理由に現行制度での実施に難色を示す。

 住民は4月に集団移転促進事業期成同盟会を結成。行政の鈍い動きにしびれを切らし、自主的に先進地を視察するなど調査、研究を進める。

 期成同盟会の畠山孝則会長(66)は「一日も早く事業に取り掛かるべきだ」と語気を強める。

 同市の最南端に位置する本吉町小泉地区は6月5日、小泉地区集団移転協議会を設立した。被災した308世帯のうち、約半数が高台移転を希望している。

 協議会の及川茂昭会長(54)は「仮設住宅の期限は2年。市は国に強く働き掛けてもらいたい」と訴える。

 

◎「全戸」高いハードル/先月アンケート、2割が希望せず/岩沼

 

 「集団移転への国の補助は、地区の全戸移転が大前提。虫食いの土地は対象にならない」

 6月21日、岩沼市総合体育館であった懇談会。市幹部の説明に、移転を考える沿岸部6町内会のリーダーは困惑した。

 「多くの住民は移転を強く願うが、住み慣れた土地を離れたくない人もいる。取りまとめは難しい」と仙台空港の東に位置する相野釜町内会の中川勝義会長(72)。他の会長からも「大変な難問」との声が漏れた。

 地域には住宅と農地が混在する。市が6月に取りまとめた6町内会の住民アンケートでは、約8割に当たる289世帯が集団移転を希望したが、残る64世帯は希望しなかった。最も高い長谷釜町内会は97.0%だが、集団移転の条件が「全戸」となるとハードルは高い。

 「いっそのこと、元の場所に住めないなら住めないと言ってくれ」といった声も上がるが、移転するかどうかは住民の判断に委ねられている。

 危険区域と判定された土地を市が独自に買い上げる財源はなく、国の制度に沿って進めるしかない。

 井口経明市長は「先祖伝来の土地を一斉に手放すのが難しいのは分かるが、国の補助に乗らない限り、現実的に集団移転はできないし、国の事業を使っても市の負担は大きい」と悩む。

 市が集団移転費用の軽減も念頭に、移転跡地の活用策として打ち出しているのが「千年希望の丘」構想だ。平たん地が続く市東部に洗浄したがれきで丘陵地を整備し、津波の勢いを弱め、避難場所にもなる場所を築く。平時には子どもたちや観光客に訪れてもらう記念公園の役割も兼ねる。

 市は跡地を活用した先駆的な防災プロジェクトを示すことで、国からより手厚い支援を引き出そうと考えている。

 

◎「国が全額負担を」/「数百億円」市、要望へ/住民が意向集約後押し/東松島

 

 東松島市では大きな津波被害を受けた沿岸部の7地区全てで、被災住民が地域の復興を考える自治組織をつくり、集団移転の早期実現を市に要望したり、復興計画に住民の声を反映させるため、住民意向調査を行ったりしている。

 集団移転に伴う市の負担は「少なくとも数百億円」(市企画政策課)に上るとみられるが、市は住民の声を後ろ盾に、国に移転費用の全額負担を要望する方針だ。

 集団移転について議論が進んでいるのは、矢本立沼、牛網、浜市、大曲、野蒜、宮戸、浜須賀の7地域。震災から3カ月近くたった今もがれきが散らばり、満潮時には冠水する場所もある。

 各地域では自治組織が自主的に住民懇談会を開き、集団移転や生活再建に向けての要望を取りまとめている。大曲浜では、全560世帯にアンケートを配布した。近く住民の意見を集約し、市に土地利用や今後の産業振興を提言する。

 津波で3分の2の家屋が全壊、流失した野蒜地区では5月、自治組織「野蒜地区まちづくり協議会」が住民の意見をまとめ、高台への移転を市に要望した。協議会の斎藤寿朗会長(71)は「地元は、残念だが暮らせる状態にない。今までのコミュニティーを維持するためにも、積極的に住民自ら将来の地域の在り方を考えたい」と話す。



———–201172日付 河北新聞に記事より転載——


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◆災害復興支援

 小川耕太郎∞百合子社ではその地の人と暮らしを支えてきた山や自然に目を向け、支援活動を行っています。2011年-2014年にかけボランティア団体「チーム日光」に支援させていただきました。以下、チーム日光の活動がメディア掲載されましたのでご報告させていただきます。


◆詳細 東日本大震災復興支援の活動報告ブログ「チーム日光のキセキ」をご覧ください。




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