2014.09.05

発信活動:NPO法人エコリビング認証推進協議会 会報誌 特集:シックスクールの現場から(執筆)

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NPO法人エコリビング推進認証協議会会報誌の「特集:シックハウス症候群」に小川耕太郎∞百合子社の小川百合子が『シックスクールの現場から』を執筆。(200210月)

 

 

シックハウス症候群のために深刻な事態に陥っている人々と日頃からそのような症状の方と接する3人から報告

(1)蜜ロウワックスを製造販売している 小川耕太郎∞百合子社の小川百合子執筆「シックスクール症候群の現場から」

 

(2)化学物質化敏捷の患者さんを多数診察している てらさわ小児科医院長 寺澤雅彦先生

 

(3)シックハウス訴訟の第一人者である弁護士の秋野卓生先生

 

 様々な立場から、シックハウスの現場報告された冊子です。

 

 

 

 

 

————以下、小川耕太郎∞百合子社の小川百合子の執筆の内容です——

 

*****【特集1】シックハウス症候群******

 

シックスクール症候群の現場からシックスクール症候群のために学校へ通えない子どもが増えている

 

 

最近「シックスクール」という言葉をよく耳にします。シックスクール症候群は、学校で使われる化学物質により気分が悪くなる、体調不良をおこす、精神が不安定になるなどの症状が発生することを示します。ほんの一部ですが、具体的な例を上げてみましょう。

 

●ワックスを塗った後は吐き気がして教室に入れない。

 

●殺虫剤を使うと頭痛が続き学校へ通えない。

 

●コピーインクの揮発成分により気分が和歩くなり、コピーしたものが読めない。

 

●美術の時間などに、油性ペン、クレヨン、糊などに含まれる揮発成分により気分が悪くなるので、十分な換気をするかマスクをして授業をうけるか、もしくは授業に出ずに保健室で休む。

 

●煙草の煙により教室に入れない。

 

●教員や生徒の、整髪料や化粧のニオイで気分が悪くなる。

 

●プールに使われている塩素により気分が悪くなる。

 

●学校の改修工事が始まると学校へ行けない。また改修したばかりの教室に入れない。

 

 

 

何らかの対策を講じて学校に通える児童はまだよいほうで、症状がひどくなると何年間も学校に通えない児童もいます。

 

 

「化学物質過敏症」として病院から診察を受けている人は少数です。ほとんどの人が「化学物質に反応しやすい症状」といった状態です。またこのような現代病を診察する病院は日本全国でもほんの一握りです。有害な化学物質の恐ろしさは、目に見えず、外見上判断することがむずかしいことです。気づかないうちに皮膚や呼吸器官を通して人体に入ってしまい、成長過程にある子ども達の免疫力や神経の発達に悪影響を及ぼしてしまいます。

 

 

厚生省が行った「保険福祉動向調査」によると、現代3人に1人の割合でアトピーやアレルギー症状が発生しているそうです。そのような症状をもつ児童は、有害な化学物質に反応し症状が悪化するケースが多いので、学校での室内環境はとても重要です。また、健全な児童でも、長時間にわたり汚染された室内環境の中にいると、日々微量な化学物質が体内に蓄積されます。学校や幼稚園にいる期間内に症状が発生しなくても、卒業後ある日突然発症するケースもあります。

 

 

最近「キレル若者」という言葉をよく聞きます。「キレル」原因はいろいろありますが、長期にわたり化学物質が体内に蓄積されるとある日突然キレやすくなることが明らかになってきました。

 

 

よってシックスクール問題は、化学物質に反応しやすい児童への対処療法ではなく、学校に通う児童全体の問題としてとらえていくことが重要です。

 

 

 

 

 

[対策が進まない理由]   1前例がないこと  2情報不足 3経済的な問題

このような問題が大きくなり、今年(2002年)41日に文部科学省は、「学校環境衛生法を一部改訂」し通達しました。その中でシックスクールへの対応にも触れています。にもかかわらず現場の小学校や幼稚園などでは、学校へ通えない児童への対応が進まない状況です。進まない理由は何でしょうか?

 

●経済的理由で安全性の高い商品を導入しにくい

 

●通達はされたが、シックスクールに関する知識がないので、保護者、教員、教育委員会で会談してもなかなか話しあいが進展しないケースが多い。

 

●学校側も前例がないため対応しづらい。

 

●安全な商品の情報基準がわからないので、なにを基準に選択してよいのかムズカシイ。

 

●現段階では、化学物質に反応しやすい児童の対処療法として話しあいがもたれているため、一部の児童の問題でそこまでできないといった意見がある。

 

 

 

小川耕太郎∞百合子社は、天然素材だけを使った蜜ロウワックスを製造・販売しておりますが、一年半前から、化学物質に敏感な方、アレルギーやアトピーの症状がある方、小さなお子様がいらっしゃる方、室内でペットを飼われている方からのご注文が増え、ワックスについても正確な情報公開が求められ、安全性に対ししても詳しい説明を要求されることが多くなりました。また、学校や保育園、幼稚園に勤務する教育関係者からは「今まで学校で使われてきた化学ワックスから安全なワックスへの切り替える要望が多くなっているので、蜜ロウワックスの資料を送ってほしい」といったお問合せも急増しています。

 

 

「何が原因で幼稚園、小・中学校でシックスクールに対する対策が進まないのか、一度現場の方とお会いし、それぞれの立場の事情を伺いました。また今年6月より保護者、建設関係者の方々にシックスクールについてアンケート調査にご協力いただいています。私は化学物質過敏症という病気に対して豊富な知識はありませんが、私なりに現場の声をまとめてみました。

 

 

———————————【問題1 価格】——————————–

エコ商品を会計上「消耗費」としてふりわけることがむずかしい。学校でつかわれる備品を安全なものに切り替える場合、予算の出所が決まっていないので、以下のようなケースがでてきています。

 

[ケース1]

S県のある幼稚園に、化学物質に反応して、幼稚園に通えない子どもがいました。その保護者から幼稚園側に、化学ワックス、合成洗剤、殺虫剤等を安全なものに切り替え、また換気扇を設置するように要望をだされました。しかしこのようなケースでは、予算に関して、国は地方自治体にゆだね、地方自治体は教育委員会にゆだねるため、予算がとりにくいのが現状です。

 

幼稚園の立場では、会計上「消耗品費」として工面する以外できないのですが、S県の幼稚園は年々消耗品費が10%カットされていますので、一人の児童のために、通常より高価で安全な商品を購入する予算がだせない状況です。結局、化学物質に反応する児童の保護者が自ら出費し、私共のワックス、安全な石けん、安全な洗剤を含め合計34,200円(消費税・取り寄せ送料別)分を購入し、幼稚園に寄付しました。その後、児童が元気に幼稚園に通っています。

 

 

[ケース2]

神奈川県の私立幼稚園では、幼稚園側が私共のワックス、安全性の高い石けんや洗剤を購入しました。私立の場合、公立ほど経済状況は厳しくないようです。ある保育士から「できれば化学物質に反応する児童のためによいうより、児童全員のためにこのような安全性の高い商品を継続して導入していきたいが、その場合予算に限界があるので、化学物質に敏感な児童が卒業したらまた元に戻るのはやむ得ないと思う。こういった商品を購入する場合、なんらかの補助金がおりないと実行は難しい」という意見がありました。

 

安全性の高いエコ商品は原料も高く、生産過程で手間がかかることが多く、また商品の良さと欠点を含め理解していただく必要が他界ので、説明するにも時間もかかります。そのため価格も高くなってしまうことは事実です。エコ商品を導入するにあたり会計上消耗品費として振りわけることに限界があります。

 

 

[ケース1][ケース2]のように、「ある対策をとれば通園できる場合」予算の出所を考える必要があります。 

 

 

 

 

 

———————————【問題2 認識】———————————

 

社会全体でシックスクールについての勉強会がないと、保護者、教員、教育委員、地方自治体の職員など、共通認識がないので話し合いが進展しづらい。

 

[ケース1]S市市民団体

S市では市民団体「子どもの健康と環境を守る会」が、S市渡邊小児科にシックスクールに対する調査を依頼し、教育委員会に要望書を出しています。(この話し合い内容はインターンネットでも公開されました。)

 

 

[ケース2]K県保護者

「私たちの子どもは化学物質に対して反応を起こしますが、今後、これ以上悪化され化学物質過敏症という病気にさせたくないという想いがあります。この病気は家庭と子どもが通う学校環境も含めて考えていかないと治療が難しい病気です。そのために学校関係者や保護者の皆様に理解していただけるよう、私自身も積極的に学校ボランティアに参加し、日々努力し、すこしずつ良い方向へ向かっています。しかしせっかく長い時間をかけ話し合いをもち、良い方向へ向かっていっても、年度が替わると担当者が変わり、また一から話し合いを持たなくてはならないこともあります」

 

 

[ケース3]S県園長

「幼稚園でのワックスがけを、保護者の方に手伝ってもらうことがあります。しかし安全性への価値観がそれぞれ異なるので、手間がかかり効果な自然系ワックスを導入する場合、保護者によって不満がでてくることもあります。ドイツやスウェーデンのように社会全体でエコロジーについての教育が浸透しないと導入しにくいと思います。

 

 

[ケース4]S県保護者

「娘が化学物質に反応しやすい症状なので天地療法で田舎に移りました。娘が幼稚園に入園するにあたり娘の症状を伝え、幼稚園側にシックスクール対応の要望とK病院からだされた診断書、この病気について取り上げられたマスコミ資料等を提出しましたが、地方ではシックスクールについて認識をもっている担当者がいないので、話しあいがむずかしい状況でした。」

 

 

 

———————————【問題3 情報】———————————

安全な商品の情報公開がされていないので、何を基準に選択して良いのかわからない。化学物質に反応しやすいといわれているアトピー、アレルギー等に反応する児童はそれぞれ症状が異なる為、法的に安全とよばれている商品でも反応がある場合があります。また原料が全部公開されていないので、何に反応するかわからず、不安要素が大きいのです。

 

どうしてもこれらの問題は、立場を超えて話しあわないと問題に対して一歩ずつ前進していくのは難しいように思いました。私どもなりにこの問題に対して提案させていただきます。

 

[提案1●価格]

教育部門の予算だけでなく環境部門、医療部門などから予算を組み立てる仕組みづくり。現時点で「化学物質に反応しやすい児童の対応予算は幼稚園や学校にはありません。「シックスクール対応」は始まったばかりなので、前例がないまたは状況共有されていません。具体的にどのように予算をとれば進展するのか、各課を超えて話しあいをもち、それぞれの分野、例えば、環境分野、医療分野、土木分野等、それぞれの分野から予算がおりないか検討し、教育部門を超えた予算の組み立てを提案する必要があります。

 

 

[提案2●認識]

患者、メーカー、教育関係者、保護者、市町村の役人、建設業者、市民団体、保健所など、様々な立場の人が一緒になって勉強会を行う。シックスクールについて一番問題なのは、保護者、教員、教育委員会だけで話し合われているケースが多く、話しあいが進展しにくように見受けられます。この問題に関しては、保護者、教育関係者のほかに患者、建材メーカー、市町村の役人、建設業者、保健所等も含め、地域社会全体で話し合いをもち、まずシックスクールに対し共通認識を持つための勉強会を行うことが大切です。私どもの行った調査の中で、シックスクールに対して具体的な対応策になるのではないかと思われた意見がありました。下記に挙げたような分野を超えた勉強会があれば、それぞれの立場でできることがハッキリしてきますので、実行へ移しやすいかと思います。

 

 

■保健所が入園前の児童にアンケート調査をする(神奈川県の保育士の意見)

化学物質に反応する子どもを診察できる病院が少ないので、幼稚園側は親から見た主観で子どもの様子を伺います。この場合、親の表現力によって差が生まれます。主張の少ない保護者の場合、どうしても児童の症状を見逃してしまう傾向があります。もし保健所から入園前の児童に対しシックスクールに関するアンケート調査が行われれば、そのアンケートに基づき、入園前に児童の様子を話しあうことができますので、どのような対応をすればよいのか用意がしやすいと思います。」

 

 

■樹木の農薬散布などは課を超えた意見交換を(埼玉県民生委員の意見)

「学校の樹木に農薬散布をすると、化学物質に反応する子どもは体調を崩しますので、長い期間学校を休まなくてなりません。また公団の団地でも樹木に農薬を巻きますので、夏休みの間外出できない児童がいます。教育委員会にこのような状況を伝えてもなかなか話が進展しないので、保健所を通して農薬の代わりになる安全なものを探せないか検討していただいています。その場合、農林課や環境課の意見も必要となってきます。シックるクール問題は色々な立場の人たちの話し合いができれば、それぞれの役割分担が明確になります」

 

 

■公共施設の改修などは、役所の指導が必要(和歌山県建築士の意見)

「公共施設の改修工事の場合、コンペの段階で”安全性に配慮した空間”などの指示がでるとそのような設計をだしやすいのですが、役所からそのような指示が出ない場合、価格の問題で、健康や環境に配慮した建材を取り寄せにくいのが現状です。教育関係者からはそのような要望があってもどの土木関係者まで要望が伝わらないことも多いのです。土木関係者の認識を高めるためにも、分野を超えた勉強会がひつようになってきます。」

 

 

[提案3●情報]

商品に対しての情報公開

学校に納品される備品や建材についての成分が情報公開されていません。NPOエコリビング推進認証協議会が採用しているような情報公開システムがあれば、商品の成分の情報がわかり、消費者は安全性、価格、利便性など様々な視点で選択することができます。特にアレルギー、アトピー、喘息、化学物質に反応しやすい児童など、安全だといわれえるものでも人それぞれ反応が異なりますので、学校関係者にも対応に困ることが多いのですが、学校側はこれらの情報公開システムによって個別に対応もできます。建材以外でも学校に使われる備品や用具を含め情報が得られると学校、保護者、役所などは大変助かる情報機関だと思います。

 

 

 

 

 

シックスクール問題は非常に難しくデリケートな問題だといわれています。しかし、「これからの社会を生きていく子ども達」について考えていくと、スタートを切り、実行していく中で構築や修正を繰り返しながら再構築する行動こそが新しい社会への突破口となるのではないかと思います。その中のひとつとして、今後NPOエコリビング推進認証協議会が行う情報公開は、とても重要になっていくと思います。

 

今回、私共も、シックスクールに対して具体的な意見を聞くことができましたので、とても勉強になりました。ただ安全なワックスを提供するだけでなく、市民参加型の新しい販売方法を組み立てていくことを考えています。微力ですがお客様の情報が生かせるビジネス展開を目指し頑張っていきたいと思います。シックスクールを通して環境保全型の新しい社会にむけてそれぞれの分野が変わっていく時代だと痛感しています。



2002105日発行 NPOエコリビング推進認証協議会 特集:シックハウス症候群 「シックスクールの現場から」小川耕太郎∞百合子社 小川百合子





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