2021.11.03

小川耕太郎∞百合子社のものづくり- vol.2

今年、何年かぶりに小川社のミストデワックスの冊子が改訂されました。3回目の改訂となる今回は、取扱説明書とカタログを合体させ、商品のボトルに付属させるために小さなサイズに。

小川耕太郎∞百合子社のものづくりに引き続き、小川耕太郎∞百合子社の小川百合子さん、藤井大造さん、元小川社スタッフで、現在フリーランスのグラフィックデザイナーとして活躍する桜茶屋デザインの速水貴子さん、そしてこの文章の筆者であるトンガ坂文庫の本澤結香の4名が集まり、制作の裏側について話しました。

以下、小川百合子さん→百合子、藤井大造さん→藤井、速水貴子さん→速水、本澤結香→本澤(敬称略)にて記載いたします。


ミストデワックスの冊子をリニューアル

本澤:今回のミストデワックスの冊子の改訂があり、私も参加させていただきました。そもそもの話なのですが、何故改訂することになったんでしたっけ?

大造:カタログを商品ボトルにくっつけたかったんだよね。今まではカタログと取扱説明書も別々で、さらにカタログサイズも大きくすぎてボトルの表示が隠れちゃうもんだから、両方をまとめて、ボトルの表示の邪魔にもならないようなサイズで、っていう無理なお願いでしたが。

百合子:どうせ改訂するなら写真なんかも変えたいなって思って。デザインは前回までもお願いしていた速水さんに再びお願いしました。速水さんのデザインははすごく自然に人に読ませるデザインというか、大声で主張するようなつくりではなくて、自然にメッセージが伝わるというか。

大造:展示会なんかでもそうなんだけど、うちのカタログってみんな結構読み込んでくれるんだよね。うちのブース本屋かな、みたいな時もある(笑)。

百合子:中身については「山SUN通信」の編集も一緒にやった本澤さんにまた声をかけました。本澤さんがよくフェミニズムとか人権の本を紹介したりしていたっていうのもあって。世代が違うから全然考え方も違うのだけど、そういう人に入って欲しいと思って声をかけました。

本澤:小川社は外部の人をどんどん巻き込んで新しいものをつくっていますよね。それって実は結構面倒なことだと思うのですが、その姿勢があるからこそ20年以上同じ商品を売り続けられているんだなと感じています。

お掃除は女性の仕事?

百合子:昔のお掃除のCMとかを見るとみんな女性がスカート履いて掃除してるんだよね。当時は別に何とも思わなかったけど、スカートで掃除するなんて動きづらいしどうなんだろう、って感じだよね。

速水:その当時の「理想の奥さん」像だったってことですよね。

百合子:CMなんかの制作陣は今でも男性が圧倒的に多いっていうもんね。

本澤:そういったことも踏まえて、今回冊子をつくるにあたって気をつけたこととか、ここにこだわった、みたいなことを改めてお話しできればと思うのですがどうでしょうか?

百合子:住まい方や暮らし方などはできるだけ色んなスタイルを入れるというか。年齢のバランスも、できるだけ配慮はしましたね。ペットがいる家庭や小さいお子さんがいる家庭に、シェアハウスなんかも入れました。もう少し上の年代の人がいてもよかったかなとも思うけど。男女比なんかは本澤さんに言われたので取り入れてみました。

本澤:せっかく編集に入れていただいたので、と思って色々とご提案したのですが、柔軟に受け入れていただけて嬉しかったです。
男女の人数比を意識したり、「掃除は女性がするもの」というステレオタイプに縛られるだけでないものを取り入れたり、多様な見え方になるようにとか。あくまで見た目の部分ではあるのですが、大切だと思っています。

百合子:今ミストデワックスのボトルに描かれているアイコンも女性なんだけど、次のリニューアルの時には変える予定でいます。それも言われないとわからなかったけど、確かにそうだなと思って。

大造:僕は元々料理人だったこともあって、料理もするし洗濯もするし掃除もするしそれが当たり前だと思ってるから、妻ばっかりに家事をさせるってこともないんだけど、実際にはまだそういう家事をやっていない男の人も多いだろうから、こうやって冊子の中でビジュアルで見せたのは良いんじゃないかなと。
僕の子どもたちが大人になった時には家事くらいできないと暮らせないと思うから、そんな風に子どもにも伝えたりはしてる。

新たな刺激を大切にする

百合子:違う世代の人とか、自分が過ごしてきた環境とか価値観とは全然違う人と仕事をするっていうのはすごく刺激になるよね。私は速水さんが会社に入ってきた時すごくびっくりしたもん。

速水:え、どういう意味ですか?(笑)

▲速水さんがスタッフとして働いていた頃につくった商品カタログ。尾鷲の銭湯へいって商品撮影をしたり、彼女の友人が2人目の子どもを産んだ頃の話をコラムとして書いたり、布オムツや子供服のリユースなど、サスティナブルライフを提案するつくりとなっている。

百合子:まちづくりに興味があることとかもそうだし、会社に入ったばっかりだけど「ここはもっとこうした方がいいですよね」とか意見をちゃんと言うところとか。最初はびっくりしたけど、後になってみると一緒に仕事してきてよかったなって思ってる。

会社って長く同じメンバーでやっていると考え方とかやり方が固まってきちゃうし、そのまま惰性で仕事をするのって楽なんだよね。それで良いところもあるんだけど、凝り固まっちゃって良くないこともたくさんある。新しいものとか人を受け入れるのって結構受け入れる側も大変だったりするんだけど、新しい方向性とか新しいやり方をするためにもいろんな場面で外部の人を入れて仕事をするようにしている。

藤井は結構いろんな集まりなんかにも顔を出すタイプで、そういうところからいろんなアイディアを持って帰ってきて話してくれるんだけど、私とか耕太郎さんは最初ぽかーんてしちゃうんだよね。でもじっくり聞いて、それから時間をかけて理解をして取り入れていくっていう過程を踏むと、みんな少しずつ変わっていくというか。そうやって新しい価値観とかやり方を取り入れることって大事だなーって。

本澤:新しいものとか人を受け入れるって結構面倒くさいことですよね。長くやっててそれが当たり前と思ってやってるのって楽ですからね。それでもちゃんと新しいものを受け入れて、時代にも対応しながら変化していくって素晴らしいことだと思います。

最近もLINEでフォローアップ教室を始めたりとか、「メンテナンスcafe」なんて企画もはじめてみたりとか。私もなんとなく中身をそばで見せていただいているのですが、トラブルとかうまく進められない部分も頻繁にでてくるのに、粘り強く対処して着実に前に進めていることが本当にすごいなって思います。

大造:社長がブルドーザーみたいに物事を進める人だからね。そういう人にただついてくのって本当は楽なんだよね。でもそういうのは好きじゃないし。それぞれが頭を使って、責任も負って。チームとしての団結はないけど、そう言うところがうちの会社なのかなって思う。

百合子:小川社は結構トップダウンだよね。耕太郎さんがやりたいことをやる。みんなついていく、みたいな。

大造:耕太郎さんはチームをまとめて引っ張っていくって感じではないからね。うちの会社はチーム力はなくてバラバラ。

百合子:私は速水さんとか本澤さんと出会って、本当にカルチャーショックを受けたんだよね(笑)。こんな生き方があるんだ、こんな考え方があるんだって。でもすごく興味はあるから、自分とは違うって跳ね除けるんじゃなくて、興味を持って知ろうとはしてるかな。

速水:百合子さんは好奇心の塊ですからね。それってすごく大事ですよね。

多様なお客様たちと

大造:うちのお客さんって面白い人が多いよね。

百合子:そう、お客さんが本当に個性的な人が多いしアーティスト気質の人とかも多くて。

大造:とことんうちの商品を使ってくれるのも有り難いよね。他のも使ってみたらどうですか?って言いたくなっちゃうくらい使ってくれて。本当に嬉しい。ウッドロングエコなんかもそうだけど、他とは違う、個性が出せるってところに価値を感じてくれる人がここ十年くらいで確実に増えた感じはするよね。

▲ウッドロングエコを塗った外壁と格子の引き戸

ウッドロングエコ塗った板を展示会にはじめて持っていったときも、「きったねえ木並べてるなあ!」とか説教されちゃったりして。

速水:展示会場のピカピカな感じには合わないんでしょうね。自然の環境の中にあるとすごく素敵に見えるんだけど。

▲ウッドロングエコを塗った外壁

大造:そうそう。でも最近では逆に、展示会場で目立つもんだからすぐ見つけてもらえる。「あ!ウッドロングエコ、わたしも使ってますよ!」なんて言って。施工写真まで見せてくれたりして(笑)。蜜ロウワックスも缶を並べておくと、使ってますよって言いにきてくれる人がすごく多くなった。

蜜ロウワックスは特に、直接売るというより販売店さんを通して売ることの方が多くなってきたから、お客さんの顔を見る機会が減ってはいるんだけど、最近だとみんなSNSにあげてくれたりするもんだからそっちの方で見えてきたかなと。みんなハッシュタグつけて投稿してくれたりするから、うちのお客さんはそこにいたのか!っていうのが分かってきたよね。全く意識してなかったけど、小川社の商品は実はSNSとの相性が良かったっていう。

速水:小川社の商品はファンがつきやすい商品だと思うんですけど、そのファンの人同士もSNSで繋がることができるようになりましたよね。

百合子:そういう意味でSNSの発達はうちにとってもすごくよかったんだよね。

大造:しかしもう蜜ロウワックスも発売から今年で21年?よく飽きずに売ってきたよね(笑)。

百合子:飽きないんだよね、これが。

本澤:それはもちろん商品への愛があるからだと思うんですけど、そうやって会社自体が変化しながら走ってるからじゃないですかね?しかも年々ファンも増えているという。本当にすごいと思っています。

大造:とりとめもなく色々話しちゃったけど、参考になる話はできたんかな(笑)。

本澤:すごく面白かったですよ!ありがとございました。

百合子:まぁ、好奇心を持っていろんな人と関わるのが大事ってことだね。例えお互い傷ついても(笑)。

本澤:傷つくんですね(笑)


2時間半くらい話したでしょうか。こんなにじっくりと小川社の「中身」について伺うこともなかなかないので、貴重で楽しい時間でした。小川社の空気感のようなものも伝わっていたら嬉しいです。
これからも新しい空気を取り入れながら、益々ファンを増やしていってほしいなあと思っています。

(文 : 本澤結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2016年に尾鷲市に移住。2018年に古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫をオープンした。

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