2021.10.06

知れば知るほど安心 — 蜜ロウワックスの原料のこと

小川耕太郎∞百合子社の看板商品でもある未晒し蜜ロウワックス。コロナ禍で自宅でDIYをする人が増えたり、家にいる時間が増えたこともあり、益々ご愛用者も増えてきているとのこと。お子さんやペットのいる家庭でも安心して使えることも大きなポイントです。

原料はたったの2つ!

小川社の未晒し蜜ロウワックスの原料は、蜜ロウとエゴマ油、それだけです。塗料というと、難しいかカタカナの物質がたくさん入っていそうなイメージですが、本当にシンプルな自然由来の原料だけでできているのが特徴です。その蜜ロウとエゴマ油について少し深掘りしていきます。

ミツバチの「無駄巣」を利用した蜜ロウ

蜜ロウワックスで使う蜜ロウは、ミツバチの「無駄巣」からできています。「無駄巣」と言われると質の悪いなにか…?という気も少しだけしてしまうのですが、「余剰巣」とも呼ばれる巣箱からはみ出して作られた巣のことです。ミツバチが繁殖して殖えていくにあたり、巣箱に入りきらなくなったもので、採蜜等には使えない巣。これらを集めて蜜ロウワックスの原料にしているのです。

中村養蜂所のみなさんと小川社

養蜂の営みは、ハチミツや蜜蠟を採るだけでなく、「ポリネーション」という役割もあります。ポリエーションとは、イチゴやミカン、栗、メロンなどの果実の受粉のためにミツバチが花粉交配を行うこと。世界食糧農業機関によると、食料の90%をまかなっている100種類以上の農作物種のうち、70%以上がみつばちを経由して受粉しているのだとか。ミツバチが担っている役割というのは思っている以上に重要です。そして自然交配よりもミツバチが交配した果実の方が何故か甘い、人工授粉とくらべ奇形が少ない、ということがあるそうです。不思議!

食べても身体に良い一番絞りのエゴマ油

エゴマ

エゴマ油というとオメガ3脂肪酸が含まれる食用油として、最近では健康食品のイメージも強いのではないでしょうか。蜜ロウワックスには、そんな身体にも良いエゴマ油を使用。エゴマ油をつくるためのエゴマは中国北部の契約農家さんがつくっています。中国のエゴマは品種改良が進み、油分が豊富で油も絞りやすく、蜜ロウワックスは、中国で生産したエゴマの実をつかい、日本で精製をして油がつくられます。

油を絞る際には最初に絞ったものを一番絞りといいますが、その後に二番絞り、三番絞りと続きます。二番絞り以降になるとその過程でどうしても薬剤を使うため、誰にでも安全を考えて、小川社では一番絞りのエゴマ油を使っています。

エゴマの実

エゴマは害獣の忌避効果がとても高く、特に葉っぱの匂いにより猪やウサギを寄せ付けません。また、青虫などは好んでエゴマの葉を食べるため、農作物の周囲に植えることにより、エゴマに虫を引き付け主要植物を守るコンパニオンプランツという役割としても栽培されています。アジアのハーブともいわれるエゴマは繁殖力も高く、無農薬で栽培できるため、農家にとっては一石二鳥の野菜でもあるのです。一方、単一栽培とは真逆な方法で育つため、効率化という視点からみると難しい植物ともいえます。

例えば、油を搾るのに必要な種子は、実になってから2日ほどで収穫しなければ実が弾けてしまうため、その時期に雨が降ってしまうと収穫ができないうえ、大型機械などでいっぺんに収穫できないという難しい側面も。



しかも、ここ数年は気候危機の影響で中国国内でも洪水等の被害が激しく、さらに中国の国策としてエゴマなどの植物よりも直接食糧になる作物の栽培が推奨されており、エゴマの生産は年々減少。価格も驚くほど高騰していると言います。

エゴマ油のヒントは尾鷲の番傘

日本有数の多雨地域である尾鷲市賀田町では、昔から番傘に柿渋とエゴマ油を塗っていたそうです。酸化することで膜ができ、和紙を強くする効果があります。父親から番傘職人だった祖父の話を聞いていた小川耕太郎さんは、番傘からヒントをもらって現在の未晒し蜜ロウワックスをつくりあげました。

自然原料を使っているからこそ絶対に無視できない、気候危機

豪雨や洪水、巨大な台風、異常な高温など、普通に暮らしているだけでも実感せざるを得ないところまできてしまっている気候危機。蜜ロウをつくってくれるミツバチや、エゴマの栽培にも大きな影響を与えています。

ミツバチの数が減っている、という話は聞いたことがある方も多いかもしれません。原因としては農薬の使用やウイルスの影響をはじめ、温暖化の影響が指摘されています。人間が生きていく上で大切な食糧生産に欠かすことのできないミツバチがいなくなってしまうことは、人類の存続にも関わるほどの大きな問題となり得ます。

中国での洪水についてはすでに言及した通りですが、世界中で洪水や豪雨が続けば、家が流される、命が奪われてしまうなどの直接的な被害に加え、農作物への大きな影響が懸念されます。日本国内でも毎年のように起こる豪雨や洪水。大切に育てた作物が毎年のように収穫時期に水の被害に遭うようになり、農家をやめてしまった人もいるといいます。

また世界を見渡せば、大規模な森林火災やバッタなどの異常繁殖、そして食糧危機、それに伴う紛争がすでに起こっています。新型コロナウイルスによるパンデミックも、気候危機による生物多様性が失われた結果ではないかという科学者もいるそうです。

今すぐできることは何だろう?

地球全体にこれほど多くの影響を与える気候危機。一体どうすればいいのだろう?私に何ができるだろう?と考えれば考えるほど、問題が大きすぎて思考停止してしまいそうになります。
レジ袋をもらわないだけでは何も変わらなそうだし、電気自動車もつくる過程で大量のCO2を排出すると聞いた。エコを謳っている商品だって必要以上に買っていては意味がなさそうだし、そもそもそれは本当に環境に優しいのか…?頭を抱えてしまいます。でもこのままで良いはずはないですよね。なので、できることから少しずつ。

今日からできるいくつかのこと

少し意識を変えるだけで今日からできそうなことを考えてみました。これ以外にも勿論たくさんできることはありますし、もっと良い方法もあると思います。まずは、何ができるかな?と意識を少し変えてみることが大事なのではないかと思っています。

使い捨てをやめてみる
一度使っただけでゴミになってしまうようなものから見直してみます。出かける時にはペットボトルではなく水筒を持参、買い物にはマイバッグを、食品ラップではなく繰り返し使える蜜ロウラップ、キッチンペーパーではなく雑巾を使うなどなど、慣れて来ると苦にならず経済的でもあります。

買う前に立ち止まる
今買おうとしているものは本当に必要なものなのか?今手元にあるもので間に合わせることはできないか?買ってすぐ捨ててしまったり不要になったりしてしまうものではないのか?一度立ち止まって考えてみると良いかもしれません。
またものを買う際には、環境不可の少ないものをできる限り選ぶということも重要です。

友達や家族と話をする
自分一人が意識や行動を変えることは大切ですが、周りにいる家族や友人とも話をしてみましょう。もっと素敵なヒンをもらえるかもしれませんし、新しいアイディアも生まれるかもしれません。もし環境問題に全く興味がなかった人であっても、興味を持ってくれるようになるかもしれません。

電力会社を変えてみる
電力自由化により、自宅やオフィスの電力会社を選べるようになりました。再生可能エネルギーを供給している電力会社に変更すれば、日々の暮らしが少し地球に優しいものになります。

環境保護活動に参加する
地域ですでに環境保護活動をしている団体やチームはないか探してみましょう。ワークショップや勉強会、ゴミ拾い森林の保護活動など様々見つけることができるのではないでしょうか。
なかなか忙しくて活動に参加しづらいという場合も、物資の援助や資金の寄付などで応援することができます。

自治体や国、企業に働きかける
一人一人の小さな積み重ねはもちろんとても大切ですが、仕組みそのものを変えることは大きな前進につながります。自治体や国が環境保護に関する条例や法律によって規制が進めば過剰な生産や資源の無駄遣いも減らす方向に動かすこともできるはず。
署名活動に参加する、地域の議員さんと話をしてみる、企業にメールを送ってみるなどなど個人でできることもありそうです。

今自分で書いたこと、ちゃんとできているかな?と思うと自信はありませんが、全部でなくともできることから、少しでも。


ソーシャルコストと社会への還元活動

小川耕太郎∞百合子社は、製品を企画、製造する過程や、お客様が消費する過程でも、持続可能であることを大切にしたものづくりや販売に取り組んでいますが、こうした理念のもとで製品をつくっても、電気やガソリン、紙などを消費することは避けられません。

そこで、設立当初から【ソーシャルコスト(社会コスト)】という考えを導入し、毎年売上の0.3%を山林の循環、維持、継承活動を行う団体や災害支援などに寄付をしています。

この【ソーシャルコスト】の考え、すごく良いなと思います。人間の毎日の活動は大なり小なり環境に負担をかけてしまいます。その負担を少しでも減らすことのできるように、そして次の世代につなぐことのできるように、ひとりひとりが考える時期にきているのではないでしょうか。

(文 : 本澤結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2017年に尾鷲市に移住。2018年に古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫をオープンした。

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