2014.08.19
蜂蜜は花の蜜からできている
「ほら、今年の蜜ですよ」
とろりと褐色のある蜂蜜がこし網から流れ出てきた。
雑木山の蜜らしい樹皮や様々な香りが広がる。
口に含むと濃厚な味わいが鼻をくすぐり、喉を通ると香りが広がってきた。
今年は、はぜ、タラや野ばらが主な蜜源だそうだ。
「当たり前ですけど、取り始めの蜜はその花の匂いがするんですよ。だから今年の雑木の蜜はこんな花の蜜がはいっているなあとわかるんですわ。
おもしろいですよね。」と語る養蜂家の中村さんはうれしそうに話す。
中村さんがとる蜂蜜は花の咲く前に掃除をして他の蜜を入れないので
特徴がはっきりしている。
「巣箱の外にまで作った巣にも蜜がたまっていますね。巣ごとどうです?」
この巣ごとはちみつをいただくコムハニーはここでしか食べれないものだ。
口に含むと巣からじゅわーと蜜があふれてくる。
今年の蜜もいい感じだぞと思い、中村さんに話すと
「今年の雑木はよくとれそうですし味もタラやはぜの花からよく蜜が取れ
なかなかいい出来ですよ。」中村さんも嬉しそうだ。
https://mitsurouwax.com/contact.html雑木山の蜜を取る場所はここ、古座川河口近くの山と那智山の近くでどちらも植林の少ない雑木林が残っているところでないと蜜は取れない。
「杉やヒノキの植林が多い和歌山県でよくここは雑木が残っていましたね。」私が尋ねると
「古座川の奥からは杉やヒノキが川を船で運び河口で集積して都へ運んでいたのですが。海に近いここらは備長炭原料としてウバメ樫を使った上質な炭づくりが大変盛んに行われていたそうです。もともと海岸に近いこの山は古代から土地の隆起などがなくて植林には向いてなかったみたいですわ」
面白いことに蜂蜜はとれたての時はその花の香りが強く、後口もすっきりしている
ところが2、3月経過すると鮮烈な花の匂いは薄れ、凝縮したような香りに代わる。喉越しもとろりとした蜂蜜特有な感じに変わっていくのだから不思議だ。
「来る途中に梅畑があったでしょう。2月に梅の花が咲くときは巣箱を置き梅の受粉を手伝っています。」
和歌山特産の南高梅は蜂がいないとあの大きくて立派な梅にはならないそうだ。ミツバチたちは冬の寒い時期は花も少なく寒さには弱いので、梅の花が咲く時に動き出し、紀州のこの地では桜や栗、苺、ミカン、びわなど果物から
山では栃、タラ、さかき、ハゼ、野ばらをなどが蜜源といわれる花からミツバチが集める。
ハウス栽培では苺、メロン、すいか、カボチャ、キュウリ、なすなどミツバチが受粉すると形がよくおいしくなるなどいわれ活躍している。
採蜜が終わるころ新しい女王蜂が出ると前の女王蜂と働き蜂の一部が巣立ち、分蜂作業がピークを迎える。
夏になると花が少なくなるので餌がなくならないよう見回り、秋が近づくと
恐ろしいスズメバチがミツバチの巣箱を襲うので頻繁に退治に出向かなくてはならない。命がけの仕事だ。
冬は花が全くなくなり、餌も少なくなるので絶やさないよう注意深く様子を見て回ります。
「この仕事をしていると天気のことが一番気になりますね。蜂場周囲の植物はよく見ています。そろそろあれが咲いたから今年は少し遅いな。巣箱の残蜜の掃除は少し遅らそうと考えますね。」
中村さんは若いころから山に登るのが好きだったため
木や山に咲く植物をみて季節を感じることが日常だったからこそだろう。
花の香りや味を生かすはちみつをとるため中村さんはその花の時期の前に丁寧に巣箱に入っていた蜜をとりだし、狙っている花が咲く前に行う。
時には天候の変動により花の咲く時期が予想より変わることがあるので
何回も作業をすることがあるが、中村さんのこだわりで丁寧にすることで
あの香り高いはちみつになるのだろう。
スプーン1杯のはちみつにはミツバチや蜜源である花、養蜂家の地道な努力の結晶です。(文:藤井大造)