2021.07.28

目に見えないものと向き合うシンプルな暮らし

白米も好きだけど玄米の方が体に良さそうだし、インスタントラーメンよりは手作りの食事をしたい。スナック菓子もたまに食べたくなるけれど控えめに。野菜もできるだけたくさん食べたいな。

健康への意識が高まるなか、なるべく体に良さそうなものを口にしたいと思い実行されている方も増えているように思います。私もその一人。あまりストイックにはできないけれど、食べたものが身体をつくることは間違いないだろうと、人工的に作られたものよりは自然なものを選びたいという気持ちがあります。

意外とたくさん…有害化学物質の発生源

京都府公式ウェブサイトより引用

しかし口から摂取するものだけに気を取られていた私は少し甘かった…。このイラストを見て少しショックを受けてしまいました。

家の中を見渡してみるとあちこちに、身体に悪影響を及ぼすかもしれない有害化学物質が。もちろんそれぞれのメーカーが国の基準に従ってつくっているので、直ちに健康被害が起こるといった類のものではないはずなのですが、日常的にそういったものにさらされることで少しずつ身体に取り込まれているということはありそうです。

有害化学物質が吸収されるルート

有害な化学物質が体に取り込まれるルートはいくつかあります。まずは、口から食べ物などと一緒に摂取するルート。これはなんとなくイメージしやすいですね。農薬や人工的な添加物はあまり摂らない方が良さそうです。しかし実は、経口吸収されるものは48時間あれば98%は解毒されるそうで、人間の体ってよくできているなと感心してしまいます。

ほかには、直接触れることで皮膚から入ってくるルートと、呼吸の際に空気と一緒に吸い込むことで体内に入ってくるルートがあります。どちらも普段あまり意識していなかったかも…。

シックハウス症候群

福岡市公式ウェブサイトより引用

シックハウス症候群。現在では原因となる化学物質の特定も進み、自治体等での啓発も積極的にされるようになったことから、聞いたことがあるという方もかなり多いのではないかと思います。1980年代頃から家や建物の気密性が求められるようになってきたことや、有害な化学物質を含む新しい建材などの登場で室内の空気の汚染が進み、1990年代頃から多くの健康被害が確認されるようになりました。

接着剤、塗料などに含まれる「ホルムアルデヒド」はシックハウス症候群の原因の代表格。呼吸器系、目、喉などの炎症、さらには発癌性も指摘されています。

建材に含まれるこういった有害な化学物質は、現在では建築基準法などでの規制が進んでいるものの、シックハウスの認識についての地域格差があるのも事実です。また、このような人体に有害な科学物質は建材だけでなく、家具やカーペット、防虫剤、殺虫剤、防カビ剤にも含まれることがあります。

シックハウス症候群はしばしばコップに入った水にたとえられ、身体に取り込まれる化学物質が一定の量を超えると発症し、その後はわずかな量でも過敏に反応してしまうようになります。日常的に使うもの、身の回りにあるものの選択について、習慣的に考える癖がつくと良いですね。

また、ストレスが過度に溜まっている状態では肝臓や腎臓の機能が低下し、身体に入ってきた化学物質の解毒作用が弱まるため、そういった状況で発症してしまうと日常生活に支障をきたしてしまうこともあるそうなので、より注意が必要です。

そもそも化学物質とは?

身の回りの有害な化学物質について書いてきましたが、そもそも化学物質とは何なのでしょうか。
広義では、元素や元素が結びついたものが化学物質。自然のものも人間が作ったものも、身の回りにある全てが化学物質なので、化学物質=悪というのは間違いです。

人工的につくられた化学物質も、すでに私たちの生活には欠かせない存在となっています。例えば農薬やプラスチック製品など有害性がわかっているものに関しても、全く使用せずに暮らすのはあまり現実的ではありません。

そして技術の進歩によって毎年のように新たな化学物質が生まれている現代。その全てについて完璧な安全性が確保されているかというとそうではないことも事実です。定期的な換気をする、できるだけ減らす、社会の仕組みとして減らす、知識を身につける、選択して買い物をする、という姿勢が大切でしょう。

小さな子どもやペットへの影響

人間の大人にも健康への影響がある有害な化学物質。体の小さなお子さんやペットへの影響はそれ以上と言われています。有害化学物質の吸収率は大人よりも高いそうで、解毒されずに様々な病気やアレルギーを引き起こす可能性も指摘されています。

床に寝そべってすごすことも多いペットは、例えばフローリングやカーペットに有害なものが含まれていた場合、人間よりも多く体に取り込んでしまうことも。小さな命を守るためにも、色々と考えることがありそうです。

心配される環境への影響

有害な化学物質は人体やペットへの影響だけでなく、環境への影響も懸念されます。人工的な化学物質が作られる過程でも、排水や煙で環境中に放出され環境汚染を引き起こし、動植物への影響、そしてそれを食べる私たち人間への影響ももちろん考えられます。廃棄の際にも正しく処理をしなければ、自然環境で分解されにくい有害な化学物質が環境中に残り続けることに。便利さだけを求めるのではなく、作る責任、使う責任について考えていくことが求められています。

誰にとっても安全なものを。自然素材だけで作ったワックス

シックハウス症候群が社会問題となりだしたころ、当時製材に携わっていた小川耕太郎∞百合子社は、自然を守り、活かし、育むことのできるものができないかという視点から商品開発を進めていました。そうして出来たのが未晒し蜜ロウワックス。蜂のムダ巣から手作業で不純物を取り除いた蜜ロウと、契約農園で栽培されたエゴマ油だけでできています。

安くて効率の良いものが「善」とされた時代、その真逆ともいえる小川社の未晒し蜜ロウワックスには「そんなもの売れないよ」という声もあったそうです。しかし安くて大量に生産できる塗料は、有害な化学物質を含み、健康被害を生んでしまっという歴史もあります。

蜜ロウラップ

カヌレを作る際に型に塗ったり、最近では食品包装用のラップフィルムの代わりに「蜜ロウラップ」を使う人も増えているように、口に入れても問題のない蜜ロウと、健康食品として取り入れる人も増えているエゴマ油。その二つの原料だけでできたワックスは、木の住まいの環境に気を遣う人に選ばれています。

人は人生の60%を家で過ごすと言われ、成人の大人で一日約20キロ(ごはんにすると100杯分)の空気を吸っていると言われています。そう聞くと、住環境がいかに大切か実感することができるのではないでしょうか。例えば新しい家具を買う時、リフォームをする時、そこまでいかずとも日々のお買い物の中で、少し立ち止まって点検する時間を持つことで、シンプルで健康的な暮らしに少しずつ近づくように思います。

(文 : 本澤結香)
尾鷲市九鬼町にある書店「トンガ坂文庫」店主。長野県松本市出身。大学進学を機に上京の後、2017年に尾鷲市に移住。2018年に古本と新刊本を扱うトンガ坂文庫をオープンした。

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