
その後、ph12.5のアルカリ水のことを知り、私の頭の中で、蜜ロウワックスのエマルション化が出来る!と思いついてしまったのだ。
もう10年前のことである。さっそく未晒し蜜ロウワックスを湯煎し、それにアルカリ水を入れながらカクハンすると、すんなりとエマルション化が出来た。
「あっ、俺って天才!」
直ぐに特許出願、商品化に動き出そうとした。
しかし、そうすんなりといかなかった。数日もすると水と油が分離し、そうなると容器を振っても元には戻らない。専門家に相談すると
「そりゃ当たり前、乳化剤を入れなさい」
との回答。でも
「乳化剤が必要なら商品化しません。」
と応えるしかなかった。
その後もあきらめきれない私は、会社の台所(私の研究室)にこもって、実験をする日々。カラーワックス(未晒し蜜ロウワックス+アルカリ水+ベンガラ)だとうまく混ざり合い、あまり分離しないことが分かった。ベンガラがバインダー(結合剤)になって分離しないのだろう。それならば、バインダーになり得る安全な自然素材がなにかないだろうか?と探し始めた。塩をはじめとして、これなら入れてもよいだろうというものを片っ端に実験したが、どうにも上手くできない。
ある取引先に伺ったとき、
「蜜ロウワックスのエマルションは、どうしてもできません。でも必ず作ってみせます。不思議なんですが信じ続けていると、思っていたことが、突然実現してきたからです。」
でも、今回に限ってはそう簡単ではなかった。何かヒントがあれば、あれこれ試行錯誤もしたが、ついに自力では断念せざるをえなかった。前髪を引っつかんで、女神もニッコリと微笑んでくれたように見えたのに、もしかすると、俺がつかんだ前髪は魔女の前髪だったのか?と疑うこともあった。なにしろ10年以上も私の想いはもて遊ばれ、引きずりまわされたのだ。想いが強すぎて引っつかまえた手をずっと離すこともできずにいた。蜜ロウワックスのエマルション商品化計画はとん挫。私の頭の中からもほとんど消えてしまった。