2026.08.07

第5話 地域の「今」を映す、カタログデザイン

cafeと本屋が場を編む

ラベルが一つの商品の「顔」だとすれば、商品カタログは、時代の流れや、お客様のライフスタイルの変化を汲み取りながら、商品の使い方や、その背景にある考え方を伝える冊子です。

・何を載せるのか

・どの写真を選ぶのか

・どのような順番で伝えるのか

・そして、今の暮らしの中で、小川社の商品がどのように見えるのか

カタログをつくる度に感じていたのは、その時代の空気や、
人が何に心を動かされているのかを、自分たちなりに感じ取ることでした。

そんな私にとって、この地域に生まれた二つの場所は、ありがたい存在でした。

▲cafe scaleの本棚が好きで、制作物をつくる仕事にはいるとまずはここに来ます。

起業して4年ほどたったころ、三重県尾鷲市に「cafe scale」ができました。

私の記憶では、この地域で初めてのカフェでした。
そして、起業から19年ほどたったころには、「トンガ坂文庫」という書店ができました。

カフェや書店には、店主が選んだ本や雑誌、音楽、器、家具、言葉が並びます。
そこには、その店の考え方だけでなく、地域の「今」の空気が表れています。

自分では選ばなかった本を手に取る。

知らなかった作家や考え方に出会う。

店内のディスプレーや光、珈琲の香りやお菓子、本棚、
流れている音楽。

といった空間の中で本を読める。その体験が、そのままカタログの形になるわけではありません。

けれど、目には見えない何かが自分の中で動き、次の発想を生み出してくれます。
cafe scaleさんの店主は、大学時代に文化人類学を学んでいたこともあり、
思いがけない本と出会えます。

気になる本が、珈琲を片手に、手に取れる。
それだけでも、うれしいことです。
何より、珈琲とスイーツのある空間で本を読む時間は、
私にとってはぼんやりした考えを整える土台になっています。

カタログデザインは、商品をきれいに並べるだけの仕事ではありません。
地域の暮らしや、その時代の空気を感じながら、「今、この商品をどう伝えるのか」を考える。
その伝え方により、時代が変わっても、愛用される商品として存在できます。

ありがたいことに、小川社は長年勤めているベテランスタッフに支えられ、少人数でも仕事を続けることができています。一方で、経営者を含め、ほぼ同じ世代のメンバーです。そのため、「多世代に伝わる考え方や言葉」が、社内だけでは交じり合いにくいという弱点もあります。

さらに、自然豊かな田舎では、油断すると仙人のようなゆったりした暮らしに流れがちです。それは田舎の魅力でもありますが、意識して外の視点を取り入れなければ、仕事に必要な好奇心が薄れてしまうこともあります。

▲トンガ坂文庫  トンガ坂文庫の本棚を眺めていると、読書欲を促されているようで、今まで読まなかった分野の本も手に取るようになりました。

8年前には、小さな漁村町に本屋『トンガ坂文庫』が生まれました。

書店で本を選ぶようになると、自分の興味のある分野だけでなく、
それまで知らなかった分野の本も読むようになりました。

・文化人類学
・政治学
・ジェンダー
・民俗学 
・多様性 他

店主のゆかちゃんからは、「アンコンシャスバイアス」という、舌を噛むような言葉を教えてもらいました。正直にいうと、「バイアスがかかっている=悪いこと」と否定されているような気持ちになり、はじめは戸惑いました。でも、自分では当たり前だと思っていることにも、無意識の思い込みがある。
一度そこから離れて、できるだけフラットな状態で見直してみる。その考え方を知ったことで、カタログを見る視点も少し変わりました。

そこで、未晒し蜜ロウワックスの姉妹品「ミストデワックス」のカタログ制作では、社外メンバーとしてトンガ坂文庫の店主ゆかちゃんに参加してもらいました。制作するにあたり彼女に確認してもらったのは、
・商品を使う人の性別や年代に偏りがないか
・障がいのある人も含め、さまざまな人の暮らしが想像できる内容になっているか 
といった内容です。

また、社内だけで制作すると、どうしても「初めて使う人」の視点にはなりにくいため、使い方の表記をはじめ、様々な角度から校正を依頼しました。

▲はじめて社外の人を入れ、制作したカタログ

当たり前の話ですが、商売は利益がでなければ続けることができません。だから、その商品をよくつかう世代を中心に、使う人の姿を描きがちです。私自身、それが当たり前だと思っていました。このカタログは、5年前くらいに製作したのですが、社外メンバーが加わることで、自分でも驚くほど視界がひろがりました。多様な立場の人と話すことで、同じ商品にもさまざまな見方があることを実感しました。



確かに、家族の形も住まいの形も生き方も、多種多様になっています。
そんなことを意識して映画やドラマをみると
「なるほどな~」と気づくことも増えました。

それ以来、なにかやろうと思う時は、トンガ坂文庫さんに選書をお願いすることが増えています。日本全国で書店が減るなか、過疎地に本屋を開いてくれたことを、本当にありがたく思っています。

▲毎年、トンガ坂文庫さんが中心となり主宰するイベント「古本市」。
▲トンガ坂文庫がある、小さな漁村町「九鬼」は、今や建築系の学生がフィールドワークにくる町に変わりました。

地域のカフェや書店で、地域の「今」と「人」に触れる。

その行き来が、ラベルからカタログへと続く、小川社のデザインの土台になっています。

地域の小売店は、商品を売るだけの場所ではなく、人が出会い、知らなかった考えに触れ、

その土地の「今」をつくっており、

地域のコミュニティや文化を育てる場所でもあるのだと思います。(おわり)

連載BLOG 4

図書館で調べること
AIを活用することhttps://mitsurouwax.com/archives/21760



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