季刊 チルチンびと No.24 2003 SPRING 
P114〜P115より抜粋


「シックスクール」も、なんのその!

   滋賀県山東町の例から
文 =岡田稔子
写真=川瀬典子
伊吹山を背景に総床面積197uの園舎
「みんなでつくろう幼稚園」

 昨年12月1日、岐阜県と県境に近い滋賀県山東町で、あるイベントが行われた。今春開園予定の町立山東幼稚園がほぼ完成し、デッキに使う材木に防護・保持剤を、保育室の床には自然素材のワックスを、町民200人で塗布するというものだ。
 当日、このイベントの前には住民による河川清掃も行われており、我々取材班は、本当に200人もの町民が集まるものだろうかと懸念していた。
 そんな心配は開始10分前になるとすっかり払拭された。老若男女、ほぼ200人が集まった。1時間あまりで作業は終了したが、ワックスを塗ったあと、保育室中、ぞうきんがけをして回る子どもたちの晴れ晴れとした表情が印象的だった。
刷毛捌きの鮮やかなおじいちゃんに子どもたちが
教わりながら防護・保持剤を塗る場面も。
老いも若きも入り乱れてにぎやかな会場だった。


町民には環境意識の素地が


 このイベントは「みんなでつくろう幼稚園」と名付けられていたが、その名称が示すとおり、この幼稚園には町民の声がたくさん詰まっている。用地取得も、町内の自治会からの立候補地より選定、コンセプトや実際の設計に関しても、町民とのワークショップを経て行われたという。他地域でもこうしたワークショップは形だけは行われているが、山東町民の関心の高さには理由があった。
 この町は古くから蛍の生息地として知られている。蛍を保護する条例が定められ、町内では農薬の使用にも厳しい規制が行われているのだ。「農薬を使わないのは蛍保護のためでもありますが、同時にそこに住む人間のためでもありますから」と話すのは三山元暎山東町長。蛍に関わるイベントも数多く、そのたびに町民の多くがボランティアとしてさまざまな役割を果たすという。
 町民とのワークショップも、この町では工夫が凝らされている。

「町民と町の間に、「通訳者」として大学の先生に入ってもらっています。住民のちょっとした発想も通訳の人を介することで、町としても理解でき、やれないことはやれないと、町民にわかる形で答えることが出来ます」(山東町長)


文部科学省、林野庁から複数の助成を得る

 この幼稚園は、幼稚園児だけのものではない。実際に幼稚園として使うのは年間140日。もっと多くの町民が使えないかと考えられた結果、親子や町外の人ともふれあえる森林公園やアスレチック施設の併設が決まった。地元の杉の木をふんだんに使い、要所には平三斗組、蟇股、肘木、持送り、懸魚飾りなど地域に残る伝統的な建築技術が取り入れられた。このような幼稚園建築には相当の費用がかかるものだが、地域交流をはかる施設の併設により、文部科学省の助成のほか、補助率の高い林野庁の助成も多く得ることができたという。公園の一部は(財)都市緑化基金「緑のデザイン賞」入賞による緑化助成も受けた。
 体に害の少ない校舎を建設するにはコストがかかり限るというのが、シックスクール問題を前によく聞かされる言葉だが、こうした工夫でハードルを乗り越えることも可能だということを示している。
「ここはどう塗ろうかな?」
まるで職人さんのよう。



「用意、ドン!」
と声をかけあってぞうきんがけ。
古き良き時代の掃除光景が
思い出される。



単年度事業では難しい
    木造校(園)舎建設


 今回の「みんなでつくろう幼稚園」で使用した木材防護・保持剤、ワックスは、「ウッドロングエコ」(カナダ・アバサイン社)と「蜜ロウワックス」(小川耕太郎∞百合子社)。「できるだけ体と環境にやさしいものを探して欲しい」と三山町長から依頼された設計士の中野勝美氏は、これらの製品を探し当て使用に至ったという。中野氏は設計の立場から、今回の木造園舎建築の苦労をこう語っている。
「補助金の関係で、単年度で完成させなければなりませんでした。木だけで建てるとなると、乾燥した木を手に入れることが最大の難関。2年度にわたる建築を認めてもらえれば、最初の1年目は木の準備に充てられるのですが・・・・」
 開園後は、今回のようなワックス塗布は園児たち自身の手で行われることになる。
「杉の床に自然素材のワックスを使うというのは、メンテナンスに手間がかかります。そのメンテナンスを、たとえうまくできなくても園児自身が行うことで、自然に触れることができますし、ものを大切にしようという心も生まれるでしょう」(三山町長)


    
シックスクールなんのその 
〜その後1年(素足で歩けるウッドデッキ)〜