小川耕太郎∞百合子社

開発までのいきさつ

合板やクッションフロアーでも使える蜜ロウワックスはできないだろうか?

蜜ロウワックスを水で溶けるようエマルション化(乳化)ができないだろうかと、ずっと思案していた。

未晒し蜜ロウワックスは無塗装の無垢材用で、合板フローリングには使えない。

また、未晒し蜜ロウワックスで仕上げた無垢フローリングのメンテ用としては、手間がかかり過ぎる、もっと手軽なものはないのかとのご意見を頂いたからだ。

水で薄めて使えるドイツ製の塗料がある。

溶剤・乳化剤・界面活性剤などを混ぜれば、同様なものがわけもなく出来上がるのだろうが、小川耕太郎∞百合子社として、そういったものを使いたくなかった。

だから常識的にいえば「出来るはずのない」商品だったのだ。

安全なクレパス作りからヒントを得る

自然顔料と蜜ロウを使い、化学物質に敏感な子供たち向けの安全なクレパスを作っていた頃があった。

顔料や染料の先生をされている方のお手伝いをしていたのだ。

自然顔料をテレフォンカードなどで細かく砕き、蜜ロウ、オリーブオイルと混ぜ、そこに卵黄や黒ビールなどを入れて作っていた。

その先生に「なぜ卵黄や黒ビールを使うのですか?」

と質問したところ、「アルカリ性の性質で全部がきちんと混ざり合うからです。」と教えてもらった。

本当にそういうことだったのかどうか定かではないのだが、私はそう受け取った。

色々な人に会うと相手から思いがけない話がでる。~ チャンスの女神には前髪しかない ~

私は常に色々な人に会っていて、仕事の話以外の相手には関係のないようなとりとめもない話でも、その時の自分が感じている話を全て話そうとしてしまう。

そうするとなぜか、相手からも思いがけない話が出てきて、私のアンテナがピッピッピッと反応し、頭の中の引き出しが突然飛び出してきて、そのまま商品開発や問題解決につながっていくのだ。

チャンスの女神には前髪しかない。

とよく言われる。材木屋の倒産からスタートした私は、

「アッ!」

と思った時には、気が付くといつだってその前髪を引っ掴んでいる。

未晒し蜜ロウワックス、ウッドロングエコ、木もちeーデッキ、木もちeー外壁、草木灰越前生漉奉書、長勝鋸、蜜ロウワックス仕上げ木製ブラインド等の全てがそうやって生まれてきた。

蜜ロウワックスのエマルジョン化に試行錯誤した○年

その後、ph12.5のアルカリ水のことを知り、私の頭の中で、蜜ロウワックスのエマルション化が出来る!と思いついてしまったのだ。

もう10年前のことである。さっそく未晒し蜜ロウワックスを湯煎し、それにアルカリ水を入れながらカクハンすると、すんなりとエマルション化が出来た。

「あっ、俺って天才!」

直ぐに特許出願、商品化に動き出そうとした。

しかし、そうすんなりといかなかった。数日もすると水と油が分離し、そうなると容器を振っても元には戻らない。専門家に相談すると

「そりゃ当たり前、乳化剤を入れなさい」

との回答。でも

「乳化剤が必要なら商品化しません。」

と応えるしかなかった。

その後もあきらめきれない私は、会社の台所(私の研究室)にこもって、実験をする日々。カラーワックス(未晒し蜜ロウワックス+アルカリ水+ベンガラ)だとうまく混ざり合い、あまり分離しないことが分かった。ベンガラがバインダー(結合剤)になって分離しないのだろう。それならば、バインダーになり得る安全な自然素材がなにかないだろうか?と探し始めた。塩をはじめとして、これなら入れてもよいだろうというものを片っ端に実験したが、どうにも上手くできない。

ある取引先に伺ったとき、

「蜜ロウワックスのエマルションは、どうしてもできません。でも必ず作ってみせます。不思議なんですが信じ続けていると、思っていたことが、突然実現してきたからです。」

でも、今回に限ってはそう簡単ではなかった。何かヒントがあれば、あれこれ試行錯誤もしたが、ついに自力では断念せざるをえなかった。前髪を引っつかんで、女神もニッコリと微笑んでくれたように見えたのに、もしかすると、俺がつかんだ前髪は魔女の前髪だったのか?と疑うこともあった。なにしろ10年以上も私の想いはもて遊ばれ、引きずりまわされたのだ。想いが強すぎて引っつかまえた手をずっと離すこともできずにいた。蜜ロウワックスのエマルション商品化計画はとん挫。私の頭の中からもほとんど消えてしまった。

蜜ロウワックスのエマルション化に試行錯誤した10年

平成23年の春、建築建材展に出展したとき、たまたま隣のブースを手伝っていた方が、アルカリ水の販売代理店も手かげていたので、 「蜜ロウワックスのエマルションをアルカリ水だけで作ろうと、何度もトライしましたができませんでした」

と話しかけてみた。

「作りましょうか」

と簡単におっしゃる。

「エー、できるのですか? どうやってもできなかったのですよ。どうやって?」「さぁー、分かりませんが、アルカリ水のメーカーに実験させてみましょう」

その後、何度も実験を繰り返し、とうとう出来た。詳しくは言えないが、私の実験室では生み出せなかった、プラスアルファの技術が加味され成功したのだ。

私が10年以上あきらめずに掴み続けていたものは、やっぱり魔女のではなく「チャンスの女神の前髪」だったのだ。こうして10年の時間をかけて、私の想いは実現した。